homeless, the vagabond 『homeless, the vagabond』
(2004.10.13)

<ギャグ・シリアスともに絶妙な良作>

ギャグが冴えた放浪&恋愛アドベンチャーゲーム。
あらすじはvectorの紹介文から引用させていただくとこんな感じです。

放浪者のおはなしです。
なんこか分岐します。

限りなく浮浪に近い放浪を続ける主人公が
よくわからん女の子と出会い、
トランペットを強要して困らせたり…
馬の糞と豚の糞、そして甘栗。

季節はまた巡り始めた…(まるっきり意味不明)

確かに意味不明なので、補足しておきます(笑)。
主人公の津田啓は、型に嵌った人生を嫌い、2年4ヶ月の間、ひとり各地を放浪してきました。ギター片手にバーで演奏をしてその日の稼ぎを得るのですが、その実力と影響力は並のものではなく、その型に嵌らない演奏と性格は、その場にいる者すべてを魅了します。

啓の性格は恋愛ゲームでは稀に見るほどの破天荒な人物です。
更に全編で繰り広げられるボケとツッコミの応酬。
稀に見るギャグ連発な展開に、最初は正直戸惑わされました。
ですが、少しするとこの世界に呑まれてしまったというか、当たり前のように享受できてしまている自分に驚きました。
すべては書き手の文才によるものとは思いますが、ギャグシーンと交互に現れるシリアスな一面、人生に対する考え方とその葛藤に非常に惹き込まれるのです。
この辺は勉強して何とかなるようなものではないと思います。

メインヒロインは2人。

小田原塔子は、啓と偶然同じ電車に居合わせ、彼の不思議な魅力に惹かれていきます。
彼女もまたボケとも天然とも区別のつかないギャグを連発するキャラクターなのですが、不思議と自然に馴染めました。
時々垣間見えるとても弱い本当の塔子の姿に、より人間らしい部分に、強く惹かれるせいなのかもしれません。
塔子という人物は、実にうまく描けていると思います。
彼女はトランペットを演奏することで、啓と一緒に放浪を続けます。

六 深菜(りくみな)はコンクールで一躍名を馳せたピアニスト。
啓に興味を持ち、とあるバーで一緒に放浪を始めることになります。
彼女はお嬢様と呼ぶに相応しい環境で育ったのですが、不思議とそんな雰囲気を感じさせないしっかり者です。
彼女が時々発する言葉も実に達観していて、深いものがあります。

レビューに私情を挟むのは少々問題かもしれませんが、私は昔、1ヶ月間、日本一周という旅をしたことがあります。
日銭を稼ぐというようなことはしませんでしたが、こういう時は普段ではとても考えないようなことをあれこれと考えて悩みました。その辺が共感できた分、人並み以上に何か惹かれるものがあったのかもしれません。


詳しい内容はネタバレになるので伏せますが、序盤に出てくる意味不明な選択肢でラストの展開が変わり、最終的に3種類のエンディングに分岐します。
良く意味を探ってみるとどちらに寄った選択なのかわかるのですが、この辺は実にわかりにくいというか、「またギャグか」とつい適当に選んでしまいますので、正直、微妙です。

最初に塔子エンドを見たのですが、完璧にヤられました。
始めてのエンドだったせいもありますが、ラストの展開が全く予想できず、ボロ泣きしてしまいました。個人的にこういうのには実に弱いのです。
以前「I'm 〜心の向こう側に〜」のさくら先輩ルートで泣きましたが、それとはまた全然種類の違う涙です。

次に見た深菜エンドも確かによかったですが、私の中で、完全に塔子エンドの勢いにかき消されていました。
最後に見た総合エンドはある意味一番予測していた展開であり、この作品のコンセプトに一番見合った終わり方だと思います。
話の筋に矛盾のない作品はプレイしていて実に面白いです。


キャラクター絵は実に少なく、イベントCGもありません。
もうちょっと数があればな、とも思いますが、シナリオがその不足を十分に補ってくれているので、特に不満は感じませんでした。
背景は写真を使用していて旅の雰囲気が出ていました。
日付表示が山手線をモチーフにしたもので、旅を想起させられてよかったです。

音楽については、音楽を重視した作品なだけにこだわりがあります。
ゲーム中に演奏される曲をイメージしたものやコミカル系、しっとり系など、作品のイメージに合ったものが使われていてよかったです。

システムの面に関しては「吉里吉里2」を使用しています。
この辺は、実にしっかりと組まれていた「Brass Restoration」と比較してしまうせいもあるか、細かいところで少々気になりました。
それでも、Flashを演出として使用した点や他の部分を考えると実に些細なことだと思います。

最終的な評価ですが、実に良かったと思います。
読み手を引き込む文章力、ハッとさせられるような奥の深い言葉遣いには、他の作品の追随を許さない特別なものを感じます。
そして、無意味な萌えやつまらないギャグもなく、実に洗練されています。
是非一度プレイしてほしい作品です。

◇homeless, the vagabond

作者:ヲサカナソフト
シナリオ:19
キャラ:19
CG:15
音楽:16
システム:15
総合点:84「A」

※各項目は、12点を標準として20点満点で採点しています。


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