Brass Restoration
『Brass Restoration』
(2004.9.23)
<膨大なシナリオが特徴、CGとシステムが秀逸>
プレイ時間約10時間の長編全年齢対応恋愛アドベンチャー。
ボリュームがある分、レビューもかなり長くなってしまいました。
あらすじはサイトから引用させていただくとこんな感じです。
主人公の瀧口了は高校生ながらにも天才のパーカッションプレイヤー(打楽器奏者)
で将来を約束されているぐらいの天才だった。
だが、いつものように過ごしていたある日、了は事故により、左腕を失うことになる。
それにより夢であった父親のようなパーカッションプレイヤーになることを悲観し、
自分の将来への希望すら見失ってしまう。
そして音楽さえ捨てようとする了だったが、様々な女の子の出会いと触れ合いを通して、
再び音楽人として生きる道を見つけだしていった・・・
腕を失うというハンデを負いながらも彼は音楽への情熱と生きるための希望を見つけ出していけるだろうか・・・?
シナリオのボリュームは本当にすごいです。
普段からいいな、と思うフレーズをメモする癖があるからかもしれませんが、私の場合、オールコンプまでに15時間近くかかりました。
まさに並の市販ゲームに匹敵するものがあります。
原画はとても丁寧に書かれており、塗りも優しいタッチで良い感じです。
各キャラ毎に立ちパターンも多く、通常画面で魅せる演出が巧みです。
イベントCGも満載で、同じく丁寧に描かれていて安心してプレイできました。
ただ、プレイしていて、これだけ好感度が上下する作品も珍しかったです。
まず序盤からギャグが連発していて、シリアスなテーマと相反することが少し気になりました。確かに笑えるのですが、時と場合をもう少しだけ考えたらもっとよくなったと思います。
そして、天才的なパーカッションプレイヤーであったというプライドが現在の自分を許そうとしないため、彼を立ち直らせようとするヒロインとよく衝突します。この精神状態のギャップが激しく最初は戸惑いました。
ヒロインとなるキャラクターは4人いて、主人公と同じく、みな何らかの形で「音楽」に関わっている子達です。
個人的に気になったのは、名前が難しく読みにくいことです。
印象的だとは思いますが、もっと読みやすい名前の方がよかったです。
最初にプレイしたのは樫葉美音(かしばよしね)先輩。
天才的なフルートの演奏者で、親は有数の金持ち。
ネタバレになるので詳しくは書けませんが、4人の中で一番重い話です。
その分、テーマである「挫折からの復帰」を一番良く描けていたと思います。
気になったのは、とにかく余剰なギャグが多く、本当に重要なシーンでさえ、ギャグがふんだんに盛り込まれていたこと。かなり鬱陶しかったです。
それが主人公だけのものならばまだしも、美音先輩さえもボケている点があまりにもいただけませんでした。
次はポニーテールの後輩、五塚小瓜(いつつかこうり)ちゃん。
事故の前までは主人公に打楽器を教えてもらっていました。
本当に良い子です。心踊らされるほど可愛い奴だと思いました。
彼女は音楽に対して天賦の才能を持っているにも関わらず、自信がなく、何があってもすべて自分のせいにして抱え込んでしまう所があります。
それでいて、純粋で汚れた点が一切なく、努力家でとても素直な子です。
この物語は主人公とヒロインの感情のすれ違いが頻繁に起こるのですが、その心理描写が一番綺麗に描けていたと思います。
イベントCGも私好みな構図が多く、とても堪能させていただきました。
3番目がボーイッシュな格闘少女、里中唯(さとなかゆい)。
一子相伝の格闘家の娘でバンドのボーカルをやっています。
その歌唱力には並々ならぬものがあり、主人公を音楽の世界に戻そうとして、一緒にバンドをするように誘ってきます。
彼女のルートは、主人公の「挫折からの復帰」には重点を置かず、唯の過去に重きをおいています。ただ、私には一番共感出来ない話でした。
「恋愛の形」って色々とあるかとは思うのですが、私はこのルートの解決となる「恋愛の形」には最後まで納得がいきませんでした。
ラストは幼馴染でメインヒロインである蘭実梨(あららぎみのり)。
「にゅにゅう」という不思議な口癖が特徴で、お米を何よりも信奉している天然少女です。
日常場面では完璧にネタ担当になっていた為、私の中での印象が悪く、攻略を一番最後に回してしまったくらいです。
ギャグシーンとはいえ、モザイク入れられるってどうなんでしょう(苦笑)。
こんなに扱いの悪いヒロインも珍しいと思います。
ですが、彼女のルートに入った途端、私の中での評価が変わりました。
グッドエンドは特に私の好きな展開でした。
そのエンディングを導き出す為の選択がシビアでかなり苦戦しましたが、それだけの価値はあるエンディングだったと思います。
あと、サブキャラクターに原田航太郎と蘭蕾観(あららぎつぼみ)というキャラがいるのですが、ふたりとも良い味を出していました。
ある意味キーマンと言っても過言ではないかもしれません。
サブキャラがしっかりしている作品は基本的にいい作品が多いです。
背景ですが「カナタへ…」のレビューでも少し触れたようにフリー素材を多く使っています。ただ、作風に合うようにアレンジを加えているなど、完成度を上げるための努力が伝わってきて、好感度は高かったです。
テキストウィンドウも計3種類用意しているなど、細かい所にまでよく目が届いていると思いました。
音楽もフリー素材を使っているそうなのですが、あえてピアノ曲で統一することで、作品の完成度を高めていました。
(若干、どうしてもピアノ曲では合わないシーンもありましたが……)
また、効果音を非常に多く使っているのが印象的でした。
この辺のこだわりはすごいと思います。
システムの面に関しては「吉里吉里2」の実力を見せられた感じです。
「SAVE」「LOAD」だけでなくサムネイルやコメントが付加でき、
セーブ数も80と豊富です。最初はこんなに数はいらないと思っていたのですが、本編が長く、選択肢も多かっただけにちょうどよかったです。
既読スキップ・強制スキップにも対応しており、一度選択した選択肢を明示できるなど、プレイする側の気持ちを十分に考えた設計になっています。
あと、ヘルプから「エンディング一覧」が見れることが面白かったです。
コンプリート出来たかどうかの指針にもなりますし、やる気も沸きます。
このシステム設計はプロの手口っぽいです。KaTanaさんという方がプログラムを担当されていたそうなのですが、ここまで精密に作り上げるのは並の努力ではないと思います。脱帽致しました。
最終的な評価ですが、原画、CGやシステムが高得点なのは揺るぎませんが、シナリオとキャラクターの性格付けで相当悩まされました。
上で書いたように、個人的には小瓜と実梨ルートはよかったですが、唯と美音先輩のルートはそこまで好きにはなれませんでした。
それは、過剰なギャグが気になったというだけでなく、多人数でシナリオを分担していたことによる、各ルート間での微妙な性格の不一致も関係しています。
そのためその2項目の点数がやや下がりましたが、個人的には稀に見るほど長々と感想を書き連ねたくなるような、やりがいのある作品でした。
◇Brass Restoration
作者:Twincle Drop
シナリオ:15
キャラ:15
CG:18
音楽:16
システム:20
総合点:84「A」
※各項目は、12点を標準として20点満点で採点しています。
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