15.破壊26


 
           26
 
 ロミア――
 君がいなくなるなんて。
 最初は、君のことなど何とも思っていなかった。
 僕は、リースの面影を持ったユキに惹かれていたから。
 僕が初めて好きになった人に似ていたユキ。
 彼女は、僕の為に死んだ。
 僕は泣いた。
 本当に好きだったから。
 リースに似ていたからじゃない。彼女自身に惹かれていた。
 
 そんな僕を、ロミアはいつも見ていてくれた。
 僕がユキの為にガーザに行くと言った時も。
 僕がセラフィスにやられて、地下に落ちた時も。
 そして、ナーサスで塞いでいた時も……
 ロミアは、ずっと僕のことだけを考えてくれていた。
 フェニナーゼスに妹を殺された為に人生に無常を感じた彼女は、僕と出会った。
 リースを目の前で失ってしまった僕。
 唯一の家族である妹を目の前で失ってしまったロミア。
『僕達って似ているのかもね』
 こうして僕達は知り合った。
 
 こんな体験をしているからこそ、僕の気持ちを一番理解してくれた彼女。
 もう離したくない。
 他人に何と言われようと構わない。
 ずっと側にいたいんだ!
 
          〜〜〜
 
 ライザは、サムソン達の瞬間移動でアナトリアにやって来ていた。
「ここがセカン大火山だ。奴は絶対にここにいる!」
 サムソンはそう断言した。
 応急処置をされたファレスは、マリアに抱えられていた。
「儂が昔から知っている伝説では、恐怖の大魔王はこの火山の奥深くに封印されているらしい」
「ファレスの言う通りや。わいらはここから出て来たんやからな」
 セラフィスは、火口を見つめた。
「あの時は、七魔人が同じ気持ちで出て来たのに……どこで間違ってしまったんでしょう」
「マリア、すべてはわいのせいや。わい一人が大魔王を復活させるんや、とか言ってアナトリア軍に入ったから……ほんまは大魔王の絶対権力から開放されて、嬉しかったはずなのにな」
「お前のせいではない。すべては俺達を裏切ったフェニナーゼスのせいだ!奴は次々と俺達を殺して、自らの魔力を高めて行ったんだ」
「今や三魔人を吸収しています。普通に戦っても、勝てる見込みは少ないです」
「それは分かっている。だが、何とかするしかないのだ!」
「よし、二手に分かれて奴を捜すんや。ライザ、わいと一緒に来い!」
「分かった」
 ライザは、サムソンからセラフィスに飛び移った。
「では、奴を見つけたらすぐ合図するんやで、サムソン」
「分かってる」
 そうして、五人は二手に分かれた。
 
          〜〜〜
 
「まさか、あんたと一緒に戦うことになるとは、思ってもみんかったな」
「……確かに、僕はユキを殺した君を憎んで来た」
「本当に済まんかった。あの時、わいはどうかしてたんや」
「…………」
「でも、今は違うで。わいは、ブルームを殺したフェニナーゼスが許せんのや」
「えっ!セラフィスは、ブルームのことが好きだったのか」
「そんな風には見えんかったか?ブルームがラスタに捕まった時、わいは柄にもなく泣いたで。ラスタはブルームを毛嫌いしとったからな。殺されたものやと思っとったんや」
「でも、生きていた……」
「ああ、ロスタリカで再会した時は嬉しかったで。向こうはそう思ってはいなかったようやがな」
「…………」
「だから、今はブルームの仇を取りたい……」
「そうか……」
二人は、暫く黙り込んでしまった。
 
「人は憎しみの気持ちを抱くことで生きていけるのかな?」
 ライザは、ロミアのことを考えながら、そう言った。
 ロミアは、妹を殺したフェニナーゼスに復讐を誓って生きてきたのだ。ライザに会うまでは。
 セラフィスは、ゆっくりと答えた。
「そうかもしれんな……でも、そういう気持ちは、わいら魔族の力になるんや」
「……魔族とは何なんだ?」
 すると、セラフィスは驚いた顔をしてライザを見た。
「面白い事言うな、あんた」
「一度訊きたかったんだ。君達はどこから来たんだ?」
「それは、わいにも分からん」
「なぜ?」
「アンゴルモアが他の星からやって来たということは知っている。わいらは、その後に創られたんや」
「アンゴルモア?」
「あ、大魔王のことや。昔はそう呼んでいたんや。奴は、わいらを使ってこの星を数百年支配した。アナトリア三世に封印されるまではな」
「そうだったのか……」
「奴の力は絶対や。わいらは、奴に逆らえないように創られとるからな。フェニナーゼスが奴の魔力を吸収したとしたら、わいらは……」
「ほう、分かってるじゃないか」
「!」
 セラフィスは、慌てて下を見た。
「フェニナーゼス!」
 
 
 
 ライザとセラフィスは、下に降りた。
 辺りは、マグマからの熱気でかなり熱かった。すごい硫黄の匂いがする。
 セラフィスは、フェニナーゼスを睨んだ。
「まさか、あんたがプレディに化けとったなんてな……」
「くく……」
 フェニナーゼスは、不気味な笑いを浮かべた。
「なぜ、ブルームを殺したんや!」
「私に逆らったからさ。私のしもべにならない奴には用はないんだ」
「貴様〜!」
「フェニナーゼス、ロミアをどうした!」
「ん?」
 フェニナーゼスは、ライザを見た。
「おい、ヴィナスフレス!」
「はい」
 フェニナーゼスが呼ぶと、ヴィナスフレスが現れた。その後ろにロミアが立っていた。
「ロミア!」
 ライザは、慌てて駆け寄る。
「『ライトニングティア』!」
「なっ!」
 ロミアの魔法が、ライザに直撃した。
「うう……一体どうしたんだよ、ロミア……」
「ライザ、殺す」
「!」
 すると、フェニナーゼスが高笑いした。
「くく……どうだ、自分の仲間に攻撃された気分は?」
「ロミアに何をした!」
「私の魔力で洗脳しただけさ。本当はたっぷりと可愛がってやろうと思っていたんだが、こっちの方が面白そうだったんでな」
「そ、そんな……」
 ライザは泣きそうになった。
「卑劣な……なんて奴や!」
「くく、いい顔だね……ほんとお前は私を楽しませてくれるな」
「この野郎〜!」
 ライザは、フェニナーゼスに斬りかかった。
 すると、ロミアが光魔竜王剣で受け止めた。
「フェニナーゼス様には、一歩たりとも近づけさせないよ」
「ロミア……」
 ついに、涙が溢れ出した。
「僕だ、ライザだよ。分からないのか!」
「…………」
 ライザは、ロミアを見つめた。
 ロミアの目は、輝きを失っていた。
 
 最悪な展開だった。
 お互い好き合っている者同士が戦わなければならないのだ。
 ライザの心は、引き裂かれそうだった。
 
          〜〜〜
 
 セラフィスは、炎魔竜王剣に魔力を込め始めた。
「ほう、やる気かね。お前一人で」
 フェニナーゼスは、ライザのことは眼中にないようだ。
「黙らんかい!わいは、わいはあんたを倒す!絶対に倒す!」
「くく……なら、やって見給え」
「『炎魔分身』!」
 セラフィスは、十人に分身した。
「小賢しいことを」
 バッ!
 フェニナーゼスは、一瞬のうちにセラフィスの懐に入った。
「『デス=オルガニズム』!」
「うぎゃああああああああああああああああ!」
 一発で、四人のセラフィスが消し飛んでしまった。
 セラフィスに緊張が走る!
「どうした、お前の力はそんなもんだったか?」
「黙れ!『炎魔装化』!」
 セラフィスは、魔装化した。六人がフェニナーゼスを囲む。
「くらえ、『メテオ』!」
 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
 破壊系最大魔法が炸裂した!辺りは粉々に吹き飛ぶ。ライザもかなり吹き飛ばされた。
「す、凄い威力だ…………」
 ライザは、ゆっくりと立ち上がった。
 大量の魔力を消費したセラフィスは、一人に戻っていた。
「ハアハアハア……」
 セラフィスは、バラバラに飛び散ったフェニナーゼスを見る。
「ブルーム、仇は取ったで……これですべては終わっ――」
 ギュイン!
「かはっ……」
 セラフィスは、ゆっくりと崩れ落ちた。
「セラフィス!」
 ライザが慌てて駆け寄ろうとすると、目の前にフェニナーゼスの頭が現れた。
「なっ!」
 頭だけ浮いたフェニナーゼスの顔は、ニヤリと笑った。      
「そ、そんな馬鹿な……どうして…………」
 すると、フェニナーゼスの頭から一気に体が生えた。
「!」
「くく……私の体は少し変わっていてね、頭さえ残れば再生可能なんだよ」
「そ、そんな……」
 
「サムソン、気付いてく……れ…………」
 セラフィスは、空に向かって魔法を放った。
 すると、すぐにサムソン達が現れた。
「フェニナーゼス、久しぶりだな」
「おや、サムソンじゃないか」
「私もいます」
「ほう、死に損ない共がまだ生きていたとはな……」
「しっかりしろ、セラフィス!」
 サムソンは、セラフィスを優しく抱える。
「へ、へへ……しくじってもうた…………」
 血だらけになったセラフィスは、作り笑いを見せる。そんな姿を見て、サムソンはフェニナーゼスを睨み付けた。
「四つのスピリトを渡せ!」
「悪いが、それは出来ない相談だ」
 すると、サムソンとマリアは各々の剣を構えた。
「やはり、お前を倒すしかないようだな、フェニナーゼス!」
「十六年前の貸しは返させて貰いますよ」
「そうか、あれからもう十六年も経ったのか……早いな」
「何が早いだ!この十六年間、俺は必死になってお前を捜した。辛うじて生きていた、マリアのこともな」
「命からがらナーサスまで逃げた私は、赤ん坊に体を退化させることで、死を免れました」
「ほう、苦労したんだねえ」
「あなたは、なぜ破壊を求めるのですか!」
 それを訊くと、フェニナーゼスは笑い出した。
「くく……だって楽しいじゃないか。人間達がもがき苦しむ姿を見るのはさ」
「く、狂ってやがる」
「サムソン、お前がそう思いたければ勝手に思っておくがいい。私は、アンゴルモアの力を得て、自分の理想の世界を創り上げる」
「させるか!」
 サムソンは、フェニナーゼスに攻撃を仕掛けた。
「『氷魔竜王剣開眼』!」
 バシュシュシュシュ!
 サムソンの必殺技が炸裂する!
「こざかしい!『デス=ライン』!」
 バシュゥ!
 両者の魔法が相殺された。
「な、何っ!」
「ここだ、サムソン!」
「!」
 バキィ!
 サムソンは、思いっきり殴り飛ばされた。同時に首が折れた音がした。もの凄い威力である。
「…………」
 サムソンは虫の息だ。
「悪いな、アンゴルモアの力は私が戴く」
 そう言うと、フェニナーゼスは更に火口の方に姿を消してしまった。
 
 
 
「サムソン!」
 マリアが救出に向かう。
「おっと、あなたの相手は私がするわ」
「ヴィナスフレス……」
 マリアは、ヴィナスフレスを睨み付けた。
 マリアの魔力の一部である、ダーク=スピリトを持つヴィナスフレス。つまり、属性が似ていると言うことだ。
 マリアは、エクスカリバーをかざした。
「『ダーク=マター』!」
「『アンテッド=デビル』!」
 フェニナーゼスによってパワーアップしたヴィナスフレスの力は、マリアと互角だった。両者の魔力が激しくぶつかり合う。
「そ、そんな……」
「私を甘く見ないことね、ハッ!」
 ズドッ!
「かはっ!」
 マリアは、直撃をくらってしまった。
 
 
 
「ライザ、何ぼけっとしとるんや。早く奴を追うんや……」
「…………」
 ライザは、まだロミアのことでショックを受けていた。目の前には、ロミアが光魔竜王剣を構えて立っている。
「この娘のことは放って置くんや。フェニナーゼスを倒したら、もとに戻る」
「けど…………」
「そうは行かないよ。僕は、あなた達をフェニナーゼス様に近づける訳には行かないんだ」
 そう言うと、ロミアは虹の竪琴を奏で始めた。
 ポロロン!
「ぎゃぁぁぁ!」
 セラフィスの体中の血管が破裂した。
「やめてくれ、ロミア!」
 セラフィスはぐったりとしてしまった。ライザは、慌てて抱きかかえる。
「な、なんてこった……この娘、伝説の音操使いなのか……」
「伝説?」
「ああ。わ、わいは、かつて一度だけ音を操ることの出来る人間に会ったことがある。アナトリア三世の側近だった奴……や……」
「なんだって!」
「わいらは、あの音操使いに随分苦戦を強いられたもんやった……ゲホッ!」
 セラフィスは、かなりの量の血を吐いた。
「セラフィス!」
「他人の心配をしている場合じゃないんじゃないの?」
「!」
「『光魔装化』!」
 ラスタが最後の手段として使った技だ。ロミアの体が、光の魔法で覆われて行く。しかし、その魔力はラスタの数倍はあった。
「す、すごい魔力だ……」
「勇者殿!」
「ファレスじいさん!」
 ライザが横を見ると、怪我を負ったファレスが立っていた。
「ここは、儂に任せるんじゃ!急がなければ、フェニナーゼスが大魔王を復活させてしまうぞ!」
「し、しかし……」
「分かってる。ロミアに怪我をさせたりなどせんわい」
「じいさん……」
「そ、その通りだ……ライザ…………」
「セラフィス!」
「た、頼む、行ってくれ……」
「分かった」
 ライザは、フェニナーゼスが歩いていった方向に走って行った。
「待つんだ、ライザ!」
 ロミアが、ライザに攻撃しようとする。
「おっと、勇者殿の邪魔は儂がさせん」
 ファレスは、ロミアの前に立ちはだかった。

「なら、あなた達を倒してから行く!」
           

続く