14.発動す!?24/25


 
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 セラフィスは、カームニス城を見つめていた。
まだ、破壊されたような様子は見られない。
「あれや、あそこにカームニス王がいるはずや」
「まだヴィナスフレスは、辿り着いていないはずだ。奴には瞬間移動は使えないからな」
 と、サムソンが付け加えた。
 
 セラフィス、サムソン、マリアの三魔人は、ライザ達より先にカームニス城に辿り着いていた。
 魔力の回復が不十分なマリアを除けば、セラフィス・サムソン共に瞬間移動が使える。
 瞬間移動は、超級レベルの魔人なら誰でも使えた。だからプレディこと、フェニナーゼスも使えたということだ。しかし、これを使うに当たっての唯一のネックは、一度も行ったことがなければ行けないと言うことだ。まあ、考えてみれば当然のことだろうが。
 とにかく、ヴィナスフレスを説得して、カームニス王のスピリトを奪わないようにする必要があった。
 ホワイトの父であるロスタリカ王は行方をくらましている。
 ならば、フェニナーゼスの野望を阻止するには、カームニス王をこちらに付けるしかなかった。
 
「行くで!」
 バッ!
「おい、ライザ達を待たなくていいのか、おいっ!」
 セラフィスは、サムソンの言葉を無視してカームニス城に侵入した。
「あの野郎……」
「仕方ありませんね、私達も向かいましょう」
「ああ」
 サムソンとマリアも、彼の後を追った。
 
          〜〜〜
 
「おい、じいさん。もう少し何とか出来ないのか!」
「無茶言うな、勇者殿。儂はカームニスには来たことがないんじゃ!」
「なんだ、役に立たねえな」
「まったく……相変わらず、口の減らない奴じゃ」
「悪かったね」
「まあいい。とにかく、こうやって少しずつ場所移動していくしかないんじゃ。それに四人もいるんじゃぞ!重いから身体がいくつあっても足りんのじゃ!」
「僕、そんなに重くないもん」
 ロミアは、あかんべーをする。
「確かにそうだろうな。ライザ、瞬間移動にはもの凄い魔力を必要とするんだ」
 と、ブルームがフォローしてくれた。
「それはそうかもしれないけど、ここままじゃいつになってもカームニス城に行けないじゃないか!」
「我慢するんじゃ、勇者殿」
「分かったよ」
 ライザは、渋々了解した。
 その時、ロミアが何かを見つけた。
「ライザ、あれを見て!」
「えっ!」
 三人は、慌ててその方向を見た。
「こんな所になぜ洞窟が……」
 ブルームはその洞窟に歩み寄った。
 ファレスも辺りを調べ始めた。
「ん、みんな注意するんじゃ!」
「えっ!」
「誰かがいた形跡がある。それもまだ新しいぞ!」
「…………」
 辺りは、一気に緊迫した雰囲気に包まれた。
 
 ガサササ!
「!」
「い、今、何かが動いたよ!」
 ロミアが奇声を上げる。
 ブルームは、風魔竜王剣を構えた。
「誰だそこにいるのは!姿を現せ!」
 
 バッ!
 
 突然、数人の男がブルームに襲いかかった。
「『ウィンドストーム』!」
「うわぁぁぁ!」
 男達は、一気に吹き飛ばされた。
 ブルームは、そのうちの一人を掴み上げる。
「あんたら何者だ?」
 その時、ファレスは男が着ていた鎧に気付いた。
「ブルーム、そいつらはロスタリカ兵じゃ!」
「何だって!」
 ブルームは、慌てて男を離した。
「じゃあ、中にホワイトのお父さんがいるのか?」
 ライザは男に訊いた。
「あ、あなた様はライア王国を救った伝説の……」
「僕のことを知っているのか?それなら話が早い。僕達はロスタリカ王を助けに来たんだ、王は中に居るのか?」
「……は、はい」
 すると、ライザ達の顔が喜びに溢れた。
「やった!予想外の展開だね!」
 ロミアは大はしゃぎである。
「それが、大けがをなされているんです」
「何だって!」
 ライザの顔色が変わった。
「王に会わせてくだされ。儂が回復する」
「分かりました!」
 四人は、急いで洞窟の中に入った。
 
 
 
「ふう、これで一安心じゃ……」
 ファレスは溜め息を付いた。
 ライザは、ロスタリカ王を見つめていた。
 かなり痩せこけていた。しかし、その中にホワイトの面影が見いだせた。
「……あなたがライザ殿か。ホワイトからの手紙で色々と話は訊いてるぞ」
「ホワイトが、あなたのことを随分心配してました」
「そうか……あの子にはずっと迷惑かけてばかりだな」
 その王の顔は寂しげだった。
 ライザの記憶によれば、ホワイトが王に会ったということはない。手紙のやりとりだけだった。写真などが同封されていたので、お互いの顔は知っていただろうが、やはり悲しいことだった。
「一度ロスタリカに戻ろう」
 ライザが提案した。
「そうじゃな、ロスタリカ王が無事ならばカームニスには行く必要もなかろう」
「確かに。セラフィス達がカームニス王を救出しているのだから、心配はないかもな」
 ブルームも賛同した。
「ホワイトが、ロスタリカに来ているのか?」
「はい。今、王の代行として国家の建て直しを図っていますぞ」
「そうか……あの子ももうそんな歳になったんだな」
 ロスタリカ王の顔は嬉しそうだった。
 自分の娘の晴れ姿である。喜ぶのも当然だろう。
「さ、行こう。ホワイトを驚かせてやらないとな」
 ライザは、ロスタリカ王を押すようにして洞窟を出た。
 
 その時だった。
「アンテッド=デビル!」
「ぐはっ!」
 ライザとロスタリカ王は吹き飛ばされた。
「ライザ!」
 ロミア達が慌てて駆け寄った。
「何者じゃ!」
 すると、攻撃を仕掛けた奴が姿を現した。
 その途端、ブルームの顔色が変わった。
「ヴィ、ヴィナスフレス!」
「なんじゃと!」
 こやつが魔神統領なのか……
 
 その女性は、巨大なドクロがついた漆黒の鎧を着ていた。随分趣味が悪いようだ。
 ただし、もの凄い美人であった。ファレスやライザが焦った程だ。
 
「なぜ、あんたがここにいるんだ……カームニスと交戦していたはずだろ!」
「あら、お生憎様ね。カームニス=スピリトはもう戴いているわよ」
「何だって!」
 ヴィナスフレスは、胸の谷間からカームニス=スピリトを取り出して見せた。
 ブルームが動揺する。
「そ、そんなバカな!現にまだアナトリア軍とカームニス軍は戦っているというのに……」
「それは、あなた達を欺く作戦よ。まんまと引っかかったようね」
「そんな……」
「し、しかし、瞬間移動も使えぬお主が、そう簡単にカームニス城に忍び込めるはずが」
「それは、私が一緒にいたからだ」
「!」
「『デス=ライン』!」
「なっ!」
 
 ザザザン!
 
 その瞬間、ファレスがズタズタに引き裂かれた。ファレスは、そのまま倒れ込んだ。
「ファレス!」
 ライザは、クリスタルソードを構えた。
 ブルームは、大声を上げた!
「プ、プレディ!」
 何と、そこにはプレディが立っていた。ライザに緊張が走る!
「き、君がプレディなのか……」
「何をそんなに驚いているのかな」
「こ、今回のクーデタが君が仕組んだことなのか!」
 すると、プレディは大笑いした。
「くく……」
「何がおかしい!」
 
 シュン!
 
 瞬時にライザの首に、プレディの剣の刃が当てられた。
「そ、そんな……」
「いいねえ、そういうの。私は下等な人間がもがき苦しむ姿が大好きなんだよ」
「なっ!」
 ライザは、プレディの言葉にゾクッとしてしまった。
 僕がここまでの恐怖を感じるなんて……
 今まで色々な奴と戦って来たと言うのに、この男に対しては全く違った感じがしていた。
 
 そんな時、ロミアが竪琴を奏で出した。何とも悲しい曲である。
 プレディは、驚いてロミアを見た。
「お、お前は……」
「まさか、会えるなんて思っても見なかったよ」
「ロミア、こいつを知っているのか?」
「僕はもうどうでもいいって思っていたのに……それなのに、どうしてこんなに心が締め付けられるんだろ」
「お前は、あのアナトリアにいた吟遊詩人か!」
「そうだよ、あなたに妹を殺されたロミアだよ!」
「ロミア……」
 ライザは、ロミアの顔を見た。いつものロミアの顔ではなかった。
 数ヶ月前、サイマン跡地であった時の、悲しい目をしたロミアだった。
 
 
 
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 プレディは、ライザの首に剣を突きつけたまま、ロミアを睨み付けていた。
「両親のいない僕らだけど、妹と僕は一生懸命生きていたんだよ。それなのに、それなのに……」
  竪琴を奏でるロミアの手が止まった。
「あなたは、十五歳になったばかりだった妹を殺したんだ!」
「お前が嫌がったせいだろうが!わざわざ私が暇つぶしにお前を選んでやったんだぞ!」
「僕の村の人達を皆殺しにしておいて、更に僕達をそんな風に扱うの!」
「殺されなかっただけ、ありがたいと思うんだな」
「…………」
 ロミアは、何も言えなくなってしまった。
 くやしかったのだ。
 アトラス派に反発していた村の人達を皆殺しにされ、更に目の前で妹が殺されたのだ。
 戦争だからと言って、何でも思い通りになるなんておかしい。
 ロミアはその矛盾の答えを求めて、旅に出たのだった。
 
「『ウィンドカッター』!」
「ふっ!」
 プレディは、ブルームの攻撃を難なくかわした。
 解放されたライザは膝を付く。
 ブルームは、プレディを睨み付けた。
「あんた、相変わらず最低な奴だね」
「それはどうも。あなたもアトラス様を裏切るなど、バカなことをしなければよかったのに」
「……もうすべて分かっているんだよ、プレディ!いや、フェニナーゼス!」
 すると、プレディは驚いた顔をした。
「おや、ばれていたのか……そりゃ残念」
「あんたには人の心ってものがないのか!」
「済みませんね、私は魔族ですから」
 プレディは、そう軽く言ってのけた。
「ヴィナスフレス、この男は魔人なんだ。私達はみんな騙されていたんだぞ!」
 すると、ヴィナスフレスはプレディに抱きついた。
「!」
「知ってるわ」
「なら、どうしてこいつなんかの味方を!」
「ごめんね。私、フェニナーゼス様が好きなの。好きで好きでたまらないの」
「そ、そんな……」
 ヴィナスフレスは、プレディにカームニス=スピリトを渡した。
「くく……なら、もうこんな格好をしている必要もないか」
 突然、プレディは魔力を開放し始めた。
 
 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオ!
 
「な、なんて力だ……」
「ふん!」
 プレディは、辺りを一掃した。
 ライザ達は、必死にその場にこらえた。
 
 暫くすると、砂埃がなくなって行った。
 ライザ達は、プレディがいた方向を見た。
「くく……光輝統領というのも面倒な役職でね。私は、光というモノが大嫌いなんだ。これなら別の統領に成りすますんだったかな」
「!」
 そこにいたのは、今までの男ではなかった。
先程までは、白い高貴な鎧に身を包んだ奴がいたはずだ。
 しかし、今、目の前にいるのは、まさしく魔人だった。肌は青がかっていた。身体も、先程より一回り大きい。長く伸びた爪は、簡単に人を切り刻めそうだった。
 これがフェニナーゼスの真の姿なのか……
 
「この身体になるのは、ヴィナスフレスを抱く時くらいだったからな……こうして自由に出来るというのはいいものだ」
「くっ……」
 ブルームは、風魔竜王剣を構えた。
「まさか、本物のプレディは……」
「ああ、五年程前にスピリトを戴いてやったよ。そこで私が成りすましたって訳だ。こいつが一番、私に性格が近かったからな。演じるのも簡単だったよ」
「何て事だ……」
「ブルーム、お前のことは結構気に入っていたんだ。唯一アトラスに反対したんだからな。まああのアトラスは、ヴィナスフレスが成りすましていたに過ぎないんだが」
「何が言いたい!」
「俺の部下にならないか?可愛がってやるぜ」
「ふざけるな!」
「ほう」
「私にだって誇りはある。死んだってあんたの仲間になんかなるつもりはない!」
「それは残念だな……それならもうお前に用はない」
「!」
 
 ズン!
 
「ぐはっ……」
 一瞬で、ブルームは心臓を突き抜かれた。
「ブルーム!」
 ライザは、慌ててブルームの元に駆け寄ろうとした。
「はっ!」
「何っ!」
 ライザは、突然の攻撃をかわした。
「あなたの相手は私がするわ」
「ヴィ、ヴィナスフレス!」
 
「さて、イデントスの残りの魔力も戴くとするかな」
 もちろん、ブルームが持つウィンド=スピリトのことである。
「……そ、そうは……行かない…………」
「何だと?」
 
 ズン!
 
 ブルームは、風魔竜王剣をフェニナーゼスの身体にめり込ませた。
「私一人では死なないよ……」
「お、お前……」
「ライザ、後は頼むぞ!」
「!」
「楽しかったよ」
 
 ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
 
「ブルーム〜〜!」
 ライザの声が響き渡った。
 
 
 
 ライザは、ガクリと膝を付いた。
「ブルームさん……」
 ロミアは涙をいっぱい溜めていた。
 すると、ヴィナスフレスが嘲った。
「ブルームも、バカな女ね」
「何言ってるんだ!ブルームは、フェニナーゼスを道連れにすることで、軍人として死んだんだぞ!」
「誰が道連れにされただと?」
「何っ!」
 その瞬間、ライザは自分の目を疑った。
 フェニナーゼスが何事もなかったかのような顔をして立っていたのだ。体に付いた埃を払っていた。
「風魔竜王剣を私に突き刺して自爆するとは考えたようだが、あの程度じゃこんなもんだ」
「そ、そんな馬鹿な……」
「おかげで、ウィンド=スピリトが吹き飛んでしまったじゃないか」
 ライザは愕然とした。
 ブルームの命を捨てた最後の攻撃が、まったく効かなかったのだ。これじゃ無駄死にじゃないか。
 悲しかった。空しかった。
 埃を払ったフェニナーゼスは、ロスタリカ王の方を見た。
「さて、ロスタリカ=スピリトを戴こうかな」
「!」
 それを訊いて、ロミアがロスタリカ王の前に立った。
「僕が守ります!」
「ロミア君……」
 ライザもロミアの横に立った。
 すると、フェニナーゼスは笑い出した。
「面白いね、クズ程よく吠えるものだな」
「何だって!」
「お前達には、レベルの違いって奴が分からないようだな。そこで死にかけているジジイやブルームに比べれば、お前達二人などゴミにも等しいじゃないか」
「じいさん……」
 ライザは、ファレスを見た。
 ファレスは、先程フェニナーゼスの不意打ちをくらったままピクリとも動かなかった。
 こんな状況を見ていると泣きそうになる。
「邪魔だ、小僧!」
「なっ!」
 ライザは、一瞬のうちに宙に浮いていた。
 体中に激痛が走る!
「ライザ!」
 ロミアは、ライザを何とかキャッチした。
「しっかりして、ライザ!」
「こ、攻撃が見えない……」
 ライザは、大量に血を吐いていた。
「きゃっ!」
 ロミアは、フェニナーゼスに掴み上げられた。
「は、離して!」
「男に用はない。だが、お前は可愛がってやるよ……妹もなかなかだったしな」
「イ、イヤ……」
「まあ、お前を可愛がるのは後にしてだ、まずは仕事を片づけないとな」
「!」
 フェニナーゼスは、ロスタリカ王を睨んだ。
「悪いが、死んで貰う」
 すると、ロスタリカ王は、自ら一歩前に出た。
「私の命はあなたに差し上げよう。だから、彼らを助けてやってはくれまいか」
「ほう……良い心がけだな」
「ダメ!ロスタリカ=スピリトが彼に渡ったら、世界は破滅するの!」
「…………」
「ホワイトがロスタリカで待っているんだよ!」
「約束は守ってください」
「分かった。話の分かる奴でよかったな、小僧」
 そう言うと、フェニナーゼスは、ロスタリカ王の頭を掴んだ。
「死ね!」
「ダメぇ〜!」
 
 ザン!
 
          〜〜〜
 
「しっかりしろ、ライザ!しっかりするんだ!」
「う、うう……」
 ライザは、ゆっくりと目を開けた。
「サ、サムソン……ここは…………?」
「それは俺のセリフだ、一体何があった?」 
「はっ!」
 ライザは、飛び起きて辺りを見回した。
「ロ、ロスタリカ王は!」
「何、ここにいたのか!」
「ここには、あんたと重傷のファレスしかおらんかったで」
 と、セラフィスが言った。
 
 その瞬間、ライザは気が狂いそうになった。


続く