13.死闘(後編)23


 
           23
 
 ライザは、ロスタリカ王宮を見つめた。
 王宮はかなり豪華である。裕福な国であったことを証明していた。
 しかし、国内の状況は最悪だ。
 ここが戦場と化してから三ヶ月近くになる。
 カームニスに進軍するヴィナスフレス部隊の拠点でもあるし、マカオ近辺からのレジスタンスの反抗、ライザ達第三部隊とセラフィス部隊の戦いなどで疲弊していた。
 ライザ達、第三部隊は、やっとのことでここまで辿り着いたのだった。
 
 ロミアは、ライザの横顔を見ていた。
 最近のライザは変わったね。
 過去のことでクヨクヨなんかしてない。
 どんどん強くなって行ってるよ。
 魔王ギィルティアーノを倒したのが、ライザじゃないって言うかもかもしれないけど、決して弱くなんかないよ。
 僕は分かってる、分かってるから……
 
 ロミアは、ライザの手をそっと握った。
「ロミア……」
「行こう、ライザ」
「――ああ、いっちょやってやるぜ!」
 ライザは、完全に立ち直ったようだ。しゃべり方も昔のように生き生きとしていた。
 
          〜〜〜
 
 ロスタリカ王宮に入ると、セラフィスが待ち構えていた。
「セラフィス、また逢ったな!」
 セラフィスは軽く笑った。何か嬉しそうだ。
「やっぱ、あんたやったんか……ここまで出来る人間ちゅうのはあまりおらんからな」
「君の部隊は片づけさせて貰った。大人しくロスタリカを開放するんだ!」
「何言うとるんや、あんなザコ倒した位で調子に乗ってもろうたら、わいの立場あらへんやんけ」
 セラフィスは、魔力で炎の剣を作り出した。ライザも、氷魔竜王剣を構える。
「行くで!」
 バッ!
 セラフィスの先制攻撃だ。ライザは上手く応戦する。セラフィスの剣・魔法弾のダブル攻撃をかわして行った。
「僕は、もう負けられないんだ!」
 ライザは、渾身の力を込めて、氷魔竜王剣を振りかざした。
「返り討ちや!『炎魔斬雑断』!」
「しまったっ!」
 ライザは、剣を振りかざしていた為にかわせない。
 ザザザン!
 
 直撃をくらったはずのライザは、ゆっくりと目を開けた。
 すると、何者かが目の前に立っていた。
「マ、マリア……」
 なんと、マリアがセラフィスの『炎魔斬雑断』を相殺していたのだ。
「何者や、あんた。わての攻撃を受け止めるなんて……」
 セラフィスはマリアを睨み付けた。一方のマリアは、ライザのことを心配していた。
「大丈夫でしたか、ライザ様?」
「あ、ああ……しかし、君は……」
 いくら、あのじいさんと同レベルと言っても、セラフィスの攻撃を対等に受け止められるとは信じられない。もしかしたら、ファレス以上の実力の持ち主なのか。
 その時、セラフィスが気が付いたかのように叫んだ。
「ま、まさか、あのマリアなのか?」
「い、いきなり何を言い出すんですか?」
 マリアが動揺する。
 その態度を、ライザは見逃さなかった。
「どういうことだ、マリア」
「…………」
 マリアは何も答えようとはしない。
 代わりにセラフィスがしゃべりだした。
「ライザ、あんたのことはロスタリカに戻ってから色々と調べさせてもろうた。あんたはサムソンの仲間やなく、クーデタを鎮圧する為に戦っているということもな」
「サムソンとは何者なんだ!」
「ん、やっぱり知らなかったんか。奴は――」
「『ホーリー』!」
「なっ!」
 セラフィスは何とかかわす。ライザとロミアは、マリアを見た。
「ど、どうしたんだ、マリア……いきなり」
「は、早くセラフィスを倒しましょうよ。これ以上この方の話なんて訊いていられません!」
「ど、どうしちゃったの、マリアらしくないよ」
「ロミアは黙っていてください!『ホーリー』!」
「うそっ!」
 なんとマリアがロミアに攻撃を仕掛けたのだ。
 ロミアはかわせない。
「『炎魔斬雑断』!」
 
 ザン!
 
 セラフィスがロミアを救った。
「えっ……」
「チイッ!」
 マリアは地団駄を踏む。ロミアは、セラフィスを見た。
「何で僕を……」
「どうやらあんたらの方に味方をした方が良さそうなんでな」
「えっ!」
 セラフィスは、マリアを睨み付けた。
「そろそろ正体を明かした方がええんとちゃうか、お嬢さん」
「くっ――」
 ライザとロミアには、状況がさっぱり掴めない。
「それなら、わいが暴いてやろうか、『炎魔斬雑断』!」
 ザザザン!
 セラフィスの攻撃が、マリアに直撃した。
「マリア!」
 ライザは、セラフィスに掴みかかる。
「マリアをよくも〜!」
「何言うとるんや、よく見てみい!」
「何だと……」
 ライザはマリアの方を見た。
「!」
 そこには、いつもの青い神官服を着たマリアの姿はなかった。黒い鎧に身を纏ったロングの髪の女性が立っていた。手にはエクスカリバーを握っている。
「う、うそっ!」
 ロミアは信じられなかった。ライザも同様だ。
「君は一体……」
「サムソン、その辺にいるんやろ、姿を見せたらどうや?」
「えっ!」
 すると、サムソンが瞬間移動で現れた。
「サムソン、どうしてここに!」
「ばれては仕方ないな、マリア」
「はい」
 マリアはサムソンの元に歩み寄った。
「マリアをスパイに使って、情報を集めていたって訳やな」
「何もかもお見通しって訳か、セラフィス」
「本当なのか、マリア!君はファレスじいさんの孫なんだろ!」
「確かにおじい様には育てて貰いましたけどね、でも私はサムソンの仲間です」
「本当はあんたの方がスピリトを欲しがっていたんやないのか?わいらを悪者にしておいてさ」
「それは違うな。俺はフェニナーゼスを始末したいだけだ。そして、仲間であるお前もな!」
「何だと?」
 
 その時、ホワイトが王宮の中に入ってきた。
「ホワイト、どうしてここに?」
 ライザは驚く。
「勇者様、今回の黒幕はアトラスじゃなかったんです。アトラスは既に殺されています!」
「なんだって!」
 ライザは、セラフィスを見た。
「ふうん、そういうことやったんか……」
 セラフィスはすべてを理解したようだ。
「まさか、知らなかったのか、セラフィス!」
「ああ……」
 そこに、瞬間移動でファレスとブルームが現れた。
「ファレス、ブルーム!」
「どういうことじゃ、マリア……」
 ファレスは、マリアを見た。
「済みません、今まで騙してきて。おじい様には本当に可愛がって貰ったのに」
「そんな……」
 ファレスはショックを受ける。
 それはそうだ。孤児だったマリアを引き取ってから十六年、ずっとファレスは内緒にされていたのだ。
「セラフィス、アトラスが死んでいたと言うことは……」
 ブルームが話しかける。
「ああ、そうみたいやな。今回の黒幕はプレディの奴だ。奴は、わいらを利用して四つのスピリトを集めさせ、大魔王を復活させる気や」
「な、なんだってっ!」
 ライザは驚く。
「わいらは、大昔に大魔王を封印した四人の王の力、つまりアナトリア・ガーザ・ロスタリカ・カームニス王のスピリトを使って大魔王を復活させ、操って世界を支配しようとしてたんや」
「そ、そんな……」
「四つのスピリトがあれば、恐怖の大魔王など操り人形のようなものやからな」
 
 そこに、サムソンが魔法弾を放った。
「何するんや!」
「ガーザ=スピリトを渡せ!」
「悪いが、既にプレディの奴に渡してしまっとる」
「ちぃ!」
「恐怖の大魔王の腹心のあんたが、随分焦っとるようやな」
「!」
 ライザ達は完全に話に乗り切れないでいた。サムソンが魔人の一人だと言うのか。それを知っていたこのセラフィスと言う男は一体……
「なぜ、あんたがそこまで焦る必要がある?あんたにとっては大魔王が復活した方が得なのではないんか。封印されてしまった一部の魔力も回復するはずやろうし」
「それはお互い様だろうが、セラフィス」
 それを訊いて、今度はブルームが驚いた。
「セラフィス、あんたも魔人だったのか!」
「あ、ばれてもうたか……そうや、わいは炎魔将軍としてファイア=スピリトを持っているのではなく、もともとわいのモノなんや」
「そ、そんなバカな……」
 
 ライザも信じられなかった。
 魔人が復活しているというのか。大魔王の封印が解かれていないというのに。
 そんなバカな。
 ライザのそんな様子に、サムソンが気付いた。
「何驚いた顔してんだ、ライザ。ギィルティアーノも復活していただろうが」
「はっ!」
 そうか、七魔人のうち、ギィルティアーノだけが復活していたんじゃなかったのか!
 では、残りの魔人もみな復活している!
 
「わいらは、十数年前にこの世界に復活したんや。わいはアナトリアの将軍をやることで、大魔王の監視をすることにした。何とかして復活出来んかと。そんな時、アトラスがクーデタを起こしたかに見せかけて、大魔王復活を目論んでいることを知ったんや。……ん、それなら、プレディの奴がフェニナーゼスやと言うのか!」
「おそらくそうだ」
「フェニナーゼスとは何者なんだ?」
 ライザが質問する。
「七魔人の一人や。まさか奴が化けていたとはな……」
「!」
「アナトリアに入ったセラフィス、お前は知らないだろうが、フェニナーゼスの奴は俺達を皆殺しにしようとしたんだ!」
「何やとっ!」
「五人のうち、生き残ったのは俺とマリア、ギィルティアーノの三人だった。マリアの方は、魔力を奪われ過ぎた為に一回赤ん坊になって回復する必要があった。ギィルティアーノは奴の家来になってライア王国を襲ったが、偶然ライザに倒されたって訳だ」
「そうやったんか……」
「俺はてっきりお前も奴のグルだと思っていたんだが……騙されていただけのようだな」
「あの野郎〜!何でわいは気付かなかったんやろ!」
 セラフィスは、強く拳を握りしめた。思いっきり壁を殴り付ける。
 ライザ達は唖然としていた。
「それじゃ、今まで僕達は何の為に戦って来たの?」
 ロミアは泣きそうになっていた。
「ロミア……」
 ライザはロミアを優しく抱き締めた。
「そしたら、急がないとあかんやんか!」
 と、急にセラフィスが大声を出した。
「ああ、その通りだ。フェニナーゼスは既に四つのスピリトを集めてしまってるかもしれん」
「やばいやんけ!」
 セラフィスの顔色が青ざめた。
 そこに、ファレスが割り込んで来た。
「なぜじゃ、なぜお主ら七魔人が復活したのじゃ!」
「――ん?それは封印の効果が緩くなって来ているせいや。穴が広がりつつある。最初は下級な魔物達が、次に中級の魔物が、そしてやっとわいら超級七魔人が復活したって訳や」
「お主らも大魔王に復活して貰った方がいいのではないのか!」
「確かにそう思うとったがな。しかし、ここまま行くと、フェニナーゼスの奴が大魔王を吸収して新たな大魔王として君臨する可能性がある」
 サムソンが付け加える。
「奴が大魔王になったらお終いだ。この星を破壊し尽くすやもしれん」
「なんじゃと……」
 そうなったらアナトリア=クーデタどころではない。
 最悪の事態だ。暫く、みんな固まってしまった。
 
          〜〜〜
 
「カームニスへ急ごう、協力してくれるなセラフィス」
「ああもちろんや。悪かったなガーザの時は」
「気にするな」
 すると、今度はライザ達の方に歩いて来た。サムソンは、ライザとロミアを見る。
「一緒に戦ってくれるか、ライザ?」
「……ああ、僕はこの世界を救いたい!」
 ライザは意気込んだ。ロミアも叫ぶ。
「僕も一緒に行くよ。ライザと一緒に戦うんだ!」
「そうか……それはありがたい」
 
 サムソンは、ブルームに剣を投げつけた。
 ブルームはパシッと受け取った。
「風魔将軍、この剣を使え。お前ならそれを使いこなせるはずだ」
「こ、これは風魔竜王剣……」
「俺が四魔剣のうち三本を持っていたんだ。お前が持っているウィンド=スピリトの持ち主、イデントスは殺られてしまった。だから、それはお前が使ってくれないか」
「分かった」
「おい、セラフィス!」
 セラフィスは炎魔竜王剣を受け取った。
「おおきに、サムソン」
 ライザは、氷魔竜王剣をサムソンに返した。
「感謝する、ライザ。代わりにと言ったら何だが、この剣を使ってくれ」
 サムソンは、ライザに剣を渡した。
「これは、僕のクリスタルソードじゃないか!」
 ライザの目が輝いた。
「俺が何とか直しておいてやった。威力は以前の数倍はある」
「ありがと!」
 ライザは、サムソンに感謝した。
 このクリスタルソードは、ライザが育て親に拾われた時に一緒に置いてあった剣なのだ。本当の親が残した唯一のモノだった。
 
 ファレスは、マリアの元にやって来た。
「マリア、まさかお主が魔人だったなんて」
「ごめんなさい、今まで内緒にしていて……でも、私にとってはこれからも大切なおじい様です」
「マリア……」
 ファレスは、マリアを抱き締めた。
 
          〜〜〜
 
 サムソン、マリア、セラフィスがカームニスに出発した夜、ライザ達はこれからのことを話し合うことにした。
 彼らに先に行って貰ったのは、エミルを妖精の森に送って行った為でもあった。その時のエミルの顔は、意外にも幸せそうだった。
 もしかしたら、天国で両親と会えたのかもしれない。
 
「ホワイト嬢ちゃん、お主はどうする気じゃ?」
「それは……」 
 すると、ライザがホワイトの元に歩み寄った。
 ホワイトは、ライザを見上げた。
「ホワイトは、ここで待っていてくれないか」
「勇者様……」
「ホワイトには、この国の建て直しをして貰いたい。君のお父さんは僕達が探す。それにハンスの看病は誰が見るんだ?」
 ライザは、ニコッと笑った。
 すると、ホワイトの目がウルウルになった。
「その顔は相変わらずだな……ほら泣くなって。永遠の別れじゃないさ。僕達はきっと帰って来る。そしたらまた漫才でもしような」
「もうっ!」
 ホワイトは、ライザをポカポカ叩く。
「でも、すっかり元気になりましたね、勇者様」
「そうか?」
「はい、これなら私、安心して待っていられます。――ロミア」
「えっ」
「勇者様のこと、よろしくね!」
「うん!」
「僕は子供じゃないぞ!」
 ライザがふくれっ面をする。
「いいえ、昔から勇者様には誰か付いていないとおっかなくって……」
「おいおい」
「私もライザをビシビシ鍛えてやるから、覚悟しておけよ!」
「ブルームまで……」
 大爆笑が起こった。
 
 久々に楽しい夜だった。
 
 またこうして、みんなで話せたらいいな。
 そう誰もが願った。


続く