6.ロミアの戦い/10

 
           
 
「マーブル、ガーザ軍が攻めて来たよ!」
 ロミアの声が辺りに響いた。
 ガーザ第二部隊がマリンブルーに攻めて来たのだ。
 これは予想外の展開だった。のんびり皿うどんを食べている場合ではなかった。
 ライザとユキが、ガーザに出発してからまだ一日も経っていなかった。
 不安が募る。
「ライザ、大丈夫なの?」
 そのことで、ロミアの頭の中はいっぱいだった。
 
 状況は、マリンブルーを始めとするレジスタンスは二千五百、ガーザ第二部隊は一万二千という強烈な劣勢であった。
 ここまでの軍を投入するということは、やはりガーザ大王もかなり切羽詰まっているに違いない。何としてもユキを手に入れたいのだろう。
 しかし、山岳・海賊兵であるこちら側は、歩兵である第二部隊よりもこの地形に適していた為、意外にいい勝負をしていた。
 ロミアの『癒しの調べ』で回復したマーブルと、ロミアがレジスタンスを二分して応戦していた。
 レジスタンスの中には、もとガーザ軍人や魔導士もいたので、彼らをロミアのもとに置いていた。
 
「虹の竪琴よ、僕に力を貸して!」
 ポロロン!
 ロミアは『嘆きの調べ』を奏でる!
「うわあああああああああああ!」
 ガーザ兵が次々に破裂していく。
「なんで、こんな戦いをしなくちゃいけないの? 元は同じ仲間だったんでしょ?」
 ロミアは嘆く。
「ガーザ大王に逆らう奴らは皆殺しさ!」
 ガーザ将軍がロミアに斬りかかる!
「そんな、どうして? どうしてなの!?」
 ポロロン!
「うぎゃああああああああああ!」
 将軍の頭が吹き飛んだ。
「うう……」
 ロミアは涙をこぼす。
「ロミア、そんなことでどうする! 今は生きることだけを考えるんだ! 死んだら何もかも終わりなんだぞ!」
 マーブルが一喝する。
 そして、彼の腹心リュネが続ける。
「そうです。僕達はこんな所で死んでなんかいられないんです。それにロミアさんはライザ様と約束されたんですよね?」
 その言葉がロミアの心に響いた。
「リュネ……。そうだ、僕はライザと約束したんだもんね。必ずここで待っているって。だからここで負ける訳にはいかないんだよね!」
 ロミアは立ち上がった。
「ライザが帰って来た時に、僕が笑って迎えてあげなくちゃ!」
 一気にロミアの士気が上がったのだった。
 
          〜〜〜
 
 第二部隊の大将は、左将軍の側近リカードだった。
「おい、何を手間取っているのだ! 相手はほんの二千五百だぞ!」
「それはそうですが、どうもレジスタンスに強力な助っ人が現れたようなのです!」
「何者だ、それは?」
「詳しいことはわかっておりません。しかし、吟遊詩人らしいと言うのです」
「吟遊詩人だと? ふざけるな! そんなアホに我が第二部隊が足止めを食っているというのか!」
「そ、そう言われましても……」
「黙れ!」
 ザン!
 報告兵の首が飛んだ。
「忌々しいレジスタンスめ……絶対に皆殺しにしてやる!」
 リカードの目は常軌を逸していた。
 
          〜〜〜
 
「はああああああ!」
 ザザン!
 マーブルの大斧が空を斬る!
 戦闘が開始されてから数日、状況はガーザ側に傾いていた。
 いくらレジスタンスの方が地形的に有利としても、兵力の差は埋まるものではなかった。
 残存レジスタンス八百、第二部隊九千五百である。
「マーブル、どうするの?」
「このままでは、今日中に全滅させられてしまうだろう……こうなったら……」
「こうなったら?」
「リカードのいる本陣を急襲するしかない!」
「でもどうやって?」
「俺が囮になる。主力を引きつけているうちにロミアがリカードを討つんだ! 奴さえ何とかすれば、敵の統率力は一気に崩れるはずだ!」
「そ、そんなこと出来ないよ! マーブルを見殺しにするなんて……」
 すると、マーブルがロミアの肩を持った。
「お前は俺の命を救ってくれた。もし、お前が回復してくれなかったら、俺はあのまま死んでいたはずだ。一度死んだ身、ならお前の為に使うのも悪くなかろう!」
「でも、あなたにもしものことがあったら、マリンブルーは……」
 マーブルは返事をせずにそのままロミアに背を向けた。
「……リュネ、彼女を送ってやってくれ……」
「わかりました、親分」
「マーブル……」
「生きろよ、ロミア」
 
「さあ、お前ら!サード大陸最強と言われた俺達マリンブルーの力を見せてやるんだ!」
「はいっ!」
「悪いな、お前らまでつき合わせてしまって……」
「いえ、俺達は死んでもお頭に付いていきます!」
「ふふ……ありがとな」
 そう言うと、マーブル軍は敵中に突っ込んでいった。
 それが、彼らを見た最期の時だった。
 
 
 
「くく、ついにマーブルもヤケになったようだな。愚かな奴め!」
 リカードは高笑いをしていた。
「愚かなのはあなたの方よ!」
「何者だ!」
「僕はロミア、何かを求めて旅する吟遊詩人だよ!」
「外には警備兵がいたはず……」
「ごめんね、みな『嘆きの調べ』で倒させてもらったの」
「はっ! まさか、マーブルは……」
「そう、彼は囮になってくれたんだよ。本陣を手薄にするために……」
 ロミアの目には涙が光っていた。
「僕は戦争なんて嫌いなんだよ。早く終わらせたいんだ……」
「何を寝ぼけてやがる! この戦争はユキ様が逃亡したから始まったのだ! 我々は何も悪くなどない!」
「それは間違っているよ! 戦争は何も生まない。悲しみを残すだけなんだよ?」
「黙れ!」
 ザン!
「きゃっ!」
 ロミアはなんとかかわしたが、帽子と服を斬られてしまった。上半身裸になってしまう。
「き、貴様女だったのか!」
 ロミアは胸を隠して座り込んでしまった。
「ふふ……そうと解れば、楽しませて貰うしかないな……」
「イ、イヤ……近づかないで……」
 ロミアは竪琴を奏でようとしたが、その前にリカードに蹴り飛ばされてしまった。胸が露わになる。
「へへ……」
「イ、イヤ……」
「黙れ!」
 バキッ!
 ロミアは頬を思いっきり殴られた。
「うう……」
「さあて、楽しませて貰おうか……」
 
 リカードがロミアの胸を掴んだ時だった。
 突然、南の方からもの凄い爆発音がした。
「な、何事だ!」
 メキメキメキ!
 本陣のテントが大地震によって潰れ始めた。
「ちいっ!」
「きゃっ!」
 リカードはロミアを抱えて本陣から逃げ出した。
 その直後、本陣のテントは完全に潰れてしまった。
 リカードはロミアを地面に叩き付ける。
「きゃっ!」
「くそっ、一体何が起こったと言うのだ!」
 リカードは南の空を見上げた。昼だというのに、空が真っ赤に染まっていた。
「あれはガーザの方角……本国で何かあったと言うのか?」
 ガーザからここカイバル峠まではかなり離れている。それなのに、ここまで影響を及ぼしているのだ。
 よく見ると、マリンブルーの砦の方が赤々と燃えていた。
「ああっ!」
「ほう、砦も地震の影響を受けたようだな。これで我々の勝利も決まったようなものだ!」
 リカードは高笑いをする。
「そんな、そんな……」
 ロミアはガクリと項垂れてしまった。
「さて、続きを始めようかあ」
 リカードの目が光る。
「あ、あああ……」
 ロミアは後ずさりをする。
「駄目だ、逃がさないぜ」
「ラ、ライザ〜〜!」
 ボン!
「うぐあああ!」
「えっ!」
 突然、リカードの体が破裂してしまった。
「一体何が……」
 リカードが倒れ込むと、そこには青い服を来た老人が立っていた。
「間一髪という所じゃったな」
「あ、あなたは?」
「儂はファレス、ライアの神官じゃ」
「ファ、ファレス……イ、イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 バチン!
「な、何を……」
「だって、ライザがファレスとかいうじいさんが来たら注意しろって言っていたもん!『奴は、女の子にイタズラする』って……」
「あ、あのクソガキ……またろくでもないこと吹き込みやがって……」
「違うの?」
「違うわい!……あ」
 ぷにっ。
「きゃっ!」
「こ、これは不可抗力でだな……」
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 バチイイイイイン!
 ファレスはもう死にかけである。
 
 
 
 ロミアはテントにあった予備の魔法衣を着ると、ファレスの元に戻ってきた。
「こ、これは……」
 ファレスに衝撃が走る!
 今までとロミアの雰囲気が全然違うのだ。三つ編みにしていた髪をほどいたロングの髪が妙に美しかった。また、今まで男物の旅人服を着ていただけに、スカートの魔法衣は全く違う印象を与えていた。
「どしたの、じいさん?」
「い、いや……」
「変なの。でも、魔法使いでもないのにこんな格好するなんて思ってもみなかったな」
 ロミアは改めて自分の格好を見直してみる。
 そして、真っ赤に燃えるマリンブルーの砦を眺めた。
 まさに地獄だった。本陣のあったここがテントが崩壊したくらいで助かったのが不思議な位だった。
「あの様子じゃ、残念ながら全滅じゃな。ほれ、見てみい。峠に断層が走っておるじゃろ? あれが決定的だったようじゃな。両軍のほとんどがあの巨大な地割れに飲み込まれてしまったに違いない。そうでない者もあの大火事に巻き込まれては助かるまい。マリンブルー・ガーザ両軍とも全滅じゃろう……」
「マーブル……」
 ロミアはガクリと膝を折った。瞳は涙でいっぱいだった。
「…………」
 ファレスは暫くロミアの顔を眺めていた。
 
 
 
 
 
 
「そういえば、じいさんはどうして僕を助けてくれたの?」
「儂は勇者殿に頼まれて陽動作戦を行っていたんじゃ。その時、第二部隊がここを攻めていると訊いてな。もしやホワイトの嬢ちゃんがいるのではと思って来たんじゃ。そしたら、お主が奴に……」
「えっ!ライザに会ったの!いつ?どこで?」
「昨日のことじゃ。多分、今頃ガーザに入っておるはずじゃが……」
「えっ!だってガーザで大爆発があったんでしょ!」
「ああ、もしかしたら勇者殿が炎の魔人と接触したのかもしれん」
「かもしれんじゃないよ!どうしてライザを助けに行かなかったの?僕なんか放っておいてライザを助けに行けばよかったんだ!」
「す、すまん……」
 ロミアの目は真剣である。
「謝って済むなら、警察はいらないんだからね!僕をガーザに連れていって!」
「しかし、今行ったらどうなるか保証出来ぬぞ!」
「そんなの関係ないよ!僕はライザを助けたいの!ライザに何かあったら僕は、僕は……ふえ……」
「わ、解ったから泣かんでくれ!」
「ほんと?」
「ああ、瞬間移動でガーザ上空に飛んでみよう。直接ガーザ城に行くのは危険じゃからな」
「ありがと、じいさん!」
「こ、こら抱きつくな!」
「えへっ!」
 ロミアはすっかり元のロミアに戻ったようだった。この数日、血みどろの戦いを続けて来たのだ。マーブルを始めとする犠牲も尋常ではなかった。
 その為、ロミアの心は深く沈んでいたはずだ。
 それをファレスが自然と治してくれたようだ。これも、ファレスの性格のおかげだろうか?
 
「よし、それでは行くぞ!しっかり儂に掴まるんじゃ!」
「うん!」
 むぎゅっ!
「よおおおおおし!瞬間移動!」
 シュン!
 
「なっ!」
「えっ!ここは!」
 移動したはずが、暗黒の空間に出てしまった。
「じ、時空の狭間じゃ!なぜ!」
「か、体が動かないよ!」
「それは仕方ない。この時空の狭間は本来人間が来てはならぬ場所なのじゃ。カオスの矯正をもの凄く受ける。普通の人間が来たら、一生ここから出られなくなる」
「で、でもどうして……」
「どうやら、何かの魔導バリアに引っかかったようじゃ!」
「えっ!きゃああああああああああああああああああああああ!」
 ファレスとロミアは深淵なる闇に飲み込まれてしまった。
 
 
 
           10
 
 あれからどれくらい経っただろうか。
 ロミアはゆっくりと瞳を開いた。
「ん、んん……ここは?」
 ロミアが辺りを見回すと、そこは森であった。かなりの大木がずっと向こうまで並んでいる。
 小鳥の囀りが辺りから聞こえていた。何かとても心が安らぐ感じである。
「そういえば、あのじいさんは何処に行っちゃったんだろ?お〜い!」
「わ、儂はここじゃ!」
「えっ!」
 ロミアは足下を見た。
 すると、ファレスを踏んでいることに気付いた。
「わっ、どうりで変な地面だと思った」
「普通気付かんか?…………あ、白」
「キャアアアアアア!」
 ゲシゲシゲシゲシゲシ!
 ファレスはまたも死にかけである。
 
 ファレスはボロボロになった体でやっと立ち上がった。
「さ、さっきのは不可抗力じゃぞ……」
「フンだ!あなた、ライザが言っていた通りの変態じゃない!」
「ち、違うのに……」
「それより、ほんとにここは何処なんだろ?一刻も早くライザの元に行きたいのに……」
「先程の魔導バリア、以前にどこかで……」
「えっ?」
「いや、多分気のせいじゃろう。とにかくここが何処なのか調べる必要がありそうじゃな」
「僕、あまりこの人と一緒にいたくないよ……ライザ…………」
「おいおい」
 
 
 
 とにかく、この森の探索が始まった。
 ファレスの言う所では、時空はスキップしていないと言う。ただ、バリアの影響で違う場所に投げ出されてしまったらしい。
 一体ここはどこなのか……
「あっ、あれ見て!」
「なんと!」
 二人は目を疑った。
 花畑の中で妖精達が楽しそうに遊んでいたのだ。
 妖精と言っても、人間タイプらしい。背格好はほとんど同じだった。違うのは、背中に羽が生えていることだけだ。
「ロミア、少し様子を見た方がいい……っておい!」
 いつの間にか似ロミアは妖精達の輪の中に入っていた。   
「妖精は、人間を嫌っていて絶対に人間には姿を見せんのじゃぞ!何をされるか……ってアラッ?」
 何か知らないが、ロミアは妖精達に受け入れられていた。
「んなアホな。時代が変わったのじゃろうか……んじゃ儂も」
「きゃああああああ!」
 すると、妖精達は一斉に隠れてしまった。
「おいおい」
「みんな〜大丈夫だよ!このじいさんは僕の知り合いだから」
「そうなの?」
 ロミアがニッコリ微笑むと、妖精達が恐る恐る出て来た。
「なんか儂、悲しいぞ……」
 
 
 
「ふ〜ん、そうなんだ」
 ロミアは、妖精達と話をしていた。
「ここが何処かわかったか?」
「うん、ガーザ東の妖精の森だって!」
「なんと!」
 ファレスはかなり驚いたようだ。
「どうしたの、そんなに驚いたりして?」
「妖精達は人間に見つからないように、特殊なバリアの中で生活しているという説があったんじゃ……まさか本当じゃったとは……」
「それじゃ僕達、妖精さんのバリアに引っかかったんだね」
「そういうことになるな……しかし、さっきのはどう考えてみても人間の作り出した魔導バリアだと思ったのじゃが……」
「細かいことは気にしない方がいいよ」
「うむ……」
 どうも納得の行かないファレスだった。
 
 
 
「えっ、僕達が来る前にも誰が人間が来たの?」
「何じゃと?」
 村を案内して貰っていた二人だが、妖精達の話を訊いて驚いた。
「詳しくはエミルに訊いてみたら?」
「エミル?」
「そう、彼女は村長の娘なんだよ。多分、そのことも知っているはずだし……」
「ありがと!」
 二人は、エミルのいう妖精の所に案内して貰った。
 彼女は、村の神殿の所にいた。神殿はまだ新しいと言った感じだ。
「あなたが、エミル?」
「そうだよ、あなたが噂の人間さんですかぁ〜?」
「うん!」
 エミルは小柄な妖精だった。百四十五センチくらいだろうか。ロミアよりもまだ背が低かった。
「エミルね、あなた達に会ってみたかったんだ〜お名前は?」
「僕?僕はロミアだよ。それで、こっちの変態じいさんがファレス」
「変態は余計だって!」
「ふうん、よろしくね〜ロミア。そうだ、よかったら色々と人間さんのお話訊かせてほしいですぅ〜」
「いいよ。じいさん、ちょっとお話してくるね」
「ああ、ちゃんと儂ら以外の人間についても訊いてくれよ」
「うん!それじゃ、行こう!エミル!」
「は〜い!」
 そう言うと、ロミアとエミルは神殿の中に入って行ってしまった。
「あれじゃあまり期待できそうにないな……仕方ない、儂はもう少しこの村を調べてみるとするかな」
 ファレスは、村の中心の方へと入って行った。
 
 
 ファレスが村で情報を集めた結果、色々なことがわかった。
 この村が十七年前に、危機的状況に陥ったこと。
 その後、外部から来たと言う今の村長が必死になって、この村を再興したということ。
 数日前から、他の人間が森の方で見かけられるということだ。
「十七年前……まさか、あいつが関係しているというのか?いや、しかし……」
「お〜い、じいさん!」
「ん?」
 ファレスが振り返ると、ロミアとエミルがこっちに歩いて来ていた。
「なんかすっかり仲良くなっちゃった!ね、エミル!」
「うん!」
「それでね、エミルが今夜家に泊まって行かないかって!」
「ほう、いいのかい?」
「い〜よ〜私の家広いし」
「これは、真相を確かめるチャンスやもしれんな」
「えっ!」
「エミル、よかったら村長に会わせてくれんか?」
「どうして〜?」
「どうしても、確かめたいことがあるんじゃ」
「?」
「じいさん、何か解ったの?」
「ロミア、儂らは何らかの原因によって歪んでいた、入れないはずのバリアの中に入ってしまったんじゃ。その為、ここから出るにはバリアを造っておる者に外に出して貰うしかないのじゃよ」
「そうか、パパならバリアを自由に操れるものね」
「そういうことじゃ」
「ふ〜ん、じゃあ会いに行こう!早くライザの元に行かなくちゃ行けないもんね」
「ねえ、ライザさんてそんなにカッコイイの?」
「うん、もちろんだよ!ロミア、大好き!」
 ロミアは、瞳をキラキラと輝かせながら言う。
「いいな〜私にもそういう人出来るかな〜?」
「大丈夫、きっと出来るよ!」
「勇者殿の話はいいから行くぞ、ロミア」
「う、うん……」
 儂の予想が正しければ、奴が、奴が生きている……
 ファレスの顔が少し強ばっていた。
 
 
「パパ、ロミアとファレスさんだよ〜」
 エミルは豪快に扉を開いた。
「ファ、ファレスだと……」
 村長の顔は驚きに満ちていた。慌てて振り返る。
「やはりお主だったか、ヴィノータ」
「ファレス……」
「十七年ぶりだな。まさか生きておったとは……」
「ファレス、どうしてここに?」
「瞬間移動しようとして、お主の魔導バリアに引っかかったのじゃよ」
「なんだって!それはおかしいぞ。私のバリアにそんな欠陥が生じているはずが……」
「しかしじゃな、現にこうして儂達が…………」
 その時、エミルが会話に割って入った。
「あれ、パパはファレスさんと知り合いだったの?」
「ん?ああ、昔一緒に働いていたんだ」
「あの時は、本当に悪かった。あの時、お主を行かせなければとずっと後悔しておったのじゃぞ……」
「いや、ファレスのせいじゃない。もとはと言えば、私のせいだからな。リコートには本当に済まないことをしたと思っている」
「ああ……」
 ロミアとエミルには何の話をしているか解らなかった。
 
 その時だった。
 突然、何者かがファレス達の前に現れたのだ!
 そいつは黒いマントを纏っていた。まるで死神のようだ。
「何が済まないと思っているだ、ファレス!ヴィノータ!」
「なっ!」
 ファレスとヴィノータは驚いた。
「リコート!」
「さて、これで役者は揃ったわけだな」
 リコートはニヤリと笑った。
「儂らの前に来ていたというのはお主なのか、リコート?」
「ああ、その通りさ。そして、俺が貴様をここに招いてやったんだ!」
「なっ!」
「大変だったんだぜ?バリアを歪めて、ファレスが瞬間移動するのを狙っていたんだからな!」
「…………」
「ファレス、十七年前のことを覚えてるよなあ?」
「もちろんじゃ。儂は一時たりとも忘れたことなどない!」
「よく言うなあ、俺を見殺しにしやがったクセに!」
「そ、それは……」
 ファレスの顔が曇る。
「これを見てみろよ。この醜い体を!」
 リコートはゆっくりと黒いマントを外した。
 すると、体の半分以上が魔物化、機械化していた。右手には、鋭いクローが付いていた。
「こ、これは……」
「あの爆発で受けた俺は、瀕死の状態だった。体などほとんどが吹き飛んでしまっていた。俺は貴様を憎んだぜ!貴様のせいでこんなことになったんだからな!」
「リコート……」
「そんな時、ある科学者が俺の前に現れたのさ。生かしてやるから、実験に協力しろとな!それは人体実験だった。しかし、俺は構わなかった。生きて貴様に復讐できるんだからな!俺は快く承諾した。その結果がこの姿だ。どうだ、醜いだろう?貴様のせいで俺はすべてを失ったんだ!」
「ち、違う……」
「言い逃れする気か!」
 リコートはファレスに言い寄る。
 ヴィノータはリコートをなだめに入った。
「違うんだ、リコート。あの事故は……」
「黙れ!」
 ザン!
「リ、リコート……」
 ヴィノータはゆっくりと倒れ込んだ。血が溢れ出す。
「パパ!」
 エミルはヴィノータの元に駆け寄った。
「リコート、何てことをするんじゃ!」

 すると、リコートは鋭い眼光でファレスを見た。
「クク……俺の話を訊いてなかったのか?俺は貴様達をこの爪でズタズタに引き裂くために地獄からやって来たんだ!」


続く