5.炎の魔人/

 
           
 
 死は目の前にあるものだと思っていた。
 
 ガシッ!
「なっ!」
 ロマニカは驚いて振り返った。
「誰だ、貴様は!」
 何と、誰かがロマニカの右腕を掴んでいたのだ。
「いい加減にしておけよ」
「何だと! 貴様に言われる筋合いはない!」
「『フリーズアタック』!」
「ギャアアアアアアアアアア!」
 一瞬にしてロマニカの右腕が凍り付いた。ロマニカは右腕を抱えて転げ回る。
「き、君は……」
 ライザは恐る恐る訊く。
「君には名乗る必要はない」
「…………」
 ロマニカが立ち上がる。
「よくもやってくれたな! 斬り刻んでやる!」
 バッ!
 ロマニカが謎の男に飛び掛かった。
「『フリーズカタストロフィー』!」
「ば、馬鹿なあああああああ!」
 バシュウウウウウウウウウウウウ!
 氷系最大魔法に、ロマニカは跡形もなく消え去ってしまった。
 
 ライザは朦朧とした意識の中、その光景を見ていた。
「……な、なんて奴なんだ」
 その男はライザの方に振り返った。
「…………」
「ぼ、僕達をどうする気だ?」
 すると、その男はユキの元へと歩いて行った。
「ユ、ユキに何をする気だ!」
 ライザは必死に止めようともがいた。しかし、体が思うように動かない。
 すぐに、男はユキの元に辿り着いてしまった。
 男はユキの体に触れる。
「やめろ〜!」
「『ヒーリング』!」
「えっ!」
 ライザは目を疑った。男がユキの傷を治し始めたのだ。
 かなりの魔力の持ち主なのだろう、あっという間にユキの傷が回復してしまった。
 男はライザを見た。
「この子を回復しない方がよかったのか?」
「そ、そんなはずないだろ……ただ……」
「ただなんだ?」
「……いや」
 
 こ、こいつは何者なんだ?
 敵なのか?
 味方なのか?
 
 暫くして、ユキが目を覚ました。
「ん、んん……」
「ユキ!」
「ラ、ライザ!」
 ユキはライザの元に駆け寄る。
「よかった……君が無事で……」
「傷が深いわ。あまり、しゃべらないで!」
「……おい」
「えっ!」
 ユキは男の声に振り返った。
「あ、あなたは?」
「そ、そいつが君の傷を治してくれたんだ」
 それを訊くと、ユキは男に頭を下げた。
「お願いします、ライザの傷も治してください!」
「…………」
 男はライザを見る。ライザも男の顔を見た。
「…………」
「……いい目をしているな」
 そう言うと、男はライザの傷を治し始めた。
「『ヒーリング』!」
 あっという間に傷が治っていく。左腕の深い切り傷もきれいに治ってしまった。
 ライザはゆっくりと立ち上がった。
「ありがとう」
「別に礼を言われる筋合いはない」
「…………」
「あなたは何者なんですか?」
「……俺の名はサムソンだ」
「僕はライザ、彼女はユキだ」
「どうして私達を助けてくれたの?」
「…………」
 サムソンは沈黙を守った。
「…………」
 
 その時だった。
 空が真っ赤に染まったのだ。
「し、しまった!」
 サムソンが大声をあげる!
「こ、これは一体!」
「お前達、逃げるんだ!」
「な……」
 空気が一気に熱くなり始めた。
「ちいっ!」
 サムソンは、ライザとユキの前に立った。
「『フリーズシールド』!」
 
 その言葉と同時だった。
 
 強烈な閃光により視力が奪われた!
 
 
 
 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
 
 
 
 すべてはその時に終わってしまった。
 
 
           
 どれくらい経ったのだろうか。
 ライザはゆっくりと目を開けた。
 すると、何が違っていた。
 周りは地獄と化していた。
 虚無な空間。草も木も生えていない。
 さっきまで目の前にあったはずのガーザ城下町。
 しかし、すべては過去のものでしかなかった。
 
「こ、これは……」
「やっと気付いたか」
「サムソン……」
 よく見ると、サムソンが背を向けて立っていた。
 その視線の先には、半壊した城が見えていた。
「あ、あれは……」
 半壊したガーザ城から煙が上がっている。どうやら、爆発源はガーザ城のようだ。
「くそっ! あの野郎、無茶苦茶しやがる!」
「誰のことだ?」
「セラフィス、お前は何を考えているんだ……はっ! そうか! ――し、しまった!」
 バッ!
「あ、おい!」
 サムソンは慌てて走って行ってしまった。
「一体どうしたんだよ……そういえば、ユキは?」
 その時、ユキがいないことに気付いた。
「まさか!」
 その途端にライザは駆け出していた。
 
 
 
 
 
 
 
 
           
 
 ライザは炎を上げるガーザ城に突入した。
 ユキが、サムソンがここにいると確信していたからだ。
 中には炎の兵士がうようよしていた。
「こ、こいつらは一体……そうか!」
 ライザは瞬時に理解した。
 やはり、炎の魔人がここに来ているのだ。
 では、先程の爆発も奴が……
 驚異的な魔力だ。
 サムソンは魔人のことを知っているようだった。
 魔人とは一体……
 いや、それ以前に、サムソンは何者なのだ。疑問は募るばかりだった。
 しかし、今はユキのことが先決だ。
 ライザはオリハルコンソードを片手に、炎兵の中に身をなげうった。
 
 偶然手に入れたオリハルコンソードではあったが、かなり強力であった。
 折れたクリスタルソードの方は、ちゃんと鞘に収めてあった。こんなになってしまったが、ライザにとっては思い出の品だったからだ。
「はああああああ!」
 ザザン!
 ライザは炎兵を次々と倒していった。
 こいつらは、どうやら『創られたモノ』らしい。魔族特有のコアを持っていた。
 この種の下級魔族は、大抵コアを破壊すれば消滅する。
「やはり、本当に魔人なのか!」
「グアアアア! 『ファイアー』!」
 ゴウ!
 炎兵の数は計り知れない。
 攻撃力はないが、炎系の魔法をどんどん使ってくる。まるで、魔導士を相手にしているようだった。
「クソッ、キリがない! 早く、早くユキを探さなければならないのに!」
 こんな時、ユキが居てくれれば……
 彼女はあらゆる魔法系を使いこなせる。魔力はそんなに強くはないが、炎兵には『フリーズアタック』程度でも絶大な効果を発する。
 彼女が必要だった。
 ユキ……
 ユキ…………
 
 ライザは不意に銀の鎧を脱ぎ始めた。
「リース……君の形見のこの鎧、五年間肌身離さず纏っていたこの鎧を使わせて貰うよ」
 その時、ライザの心の中は、ユキのことでいっぱいだった。
 リースのそっくりさんであるからではない。
 ユキだから……
 彼女だからこそ、命を張れるのだ。
 ずっと大切にして来た形見の鎧を投げうったのだ。
 
 ライザは銀の鎧を空に投げた。
「シルバーアーマーよ! 今こそ、その封じられし力を開放し給え!」
 ライザの念に合わせて銀の鎧が目映いばかりの光球に変わっていく。
 炎兵達も驚いて一瞬立ち止まった。
「はああああああああ! 『氷龍召喚』!」
 グオオオオオオオ!
 ライザの体が氷の龍に変化してゆく!
「ファ、『ファイアー』!」
 炎兵達は、一斉にライザ目掛けて呪文を発動させた。
 ジュウ!
 しかし、氷龍と化したライザには、痛くもかゆくもなかった。
 ライザは氷を吐いた! 瞬時に炎兵が凍り付く。
「消えろおおおおおおおおおお!」
 ライザは力を開放した。
 一気に炎兵が凍り付いて行く。
 いや、それだけではない。辺りに広がっていた炎が全て消えていった。
 
「ハアハアハア……」
 ライザは辺りを見回した。
 炎兵は全滅していた。さすが『氷龍召喚』である。
 龍召喚は、かなりの高等技術である。レベル三十を越えた者でも、なかなか出来ない。
「リース、また君に助けられたな……僕って奴は……」
 ライザは銀の兜を外して、見てみた。
 実は、ライザが纏っていた装備は、すべてリースのものだったのだ。
「相変わらず強力だな、君の力は……」
 銀の兜にライザの顔が映る。
「君の兜、君の鎧……あの時、君は僕をかばって死んだ。僕にすべてを託して……僕はあの時、君を守ってやれなかった。だから、ユキを絶対に守りたい! それじゃダメかな? リース……」
 そう言うと、ライザは兜をかぶり直した。
 
 
 
 ライザは崩れかかった階段を上っていた。
 そこら中に、死体が並んでいる。
 悲惨な状況だ。
 先程の氷龍召喚で、炎は完全に消えていた。どうやら城全域までその影響があったらしい。崩れた壁からは、廃墟と化したガーザ城下町が見えていた。
 各地でまだ激しく燃えているようだ。
 空は黒い雲に覆われて、決して太陽を見せようとしなかった。
 それは、どこまでもどこまでも続いていた。
 
「くそっ! 一体何階まであるんだ、この城は!」
 さすが、世界の強国ガーザ帝国と言えそうな城ではあるが、今は逆に惨めなだけだった。
「なんだ、この熱気は?」
 突然、辺りの空気が熱くなってきた。
「この上か!」
 ライザは一気に階段を駆け上った。
 そこで、ライザが見たモノ……
 それは、燃えさかる王の間であった。ここ最上階のこの部屋だけ未だに炎に包まれていた。
「こ、これは……」
 ライザはもの凄い熱風に圧倒される。
 その時だった。
 誰かの叫び声が聞こえた。
「ユキ!」
 ライザは躊躇うことなく、炎の中に飛び込んだ。
 
 ゴオオオオオ……
 
 激しく燃える炎の中、数人の人影があった。
 ライザは目を凝らしてみた。
 すると、王座の前に老人と魔装束を纏った男が、そこから少し離れた所にサムソンとユキがいた。
「ユキ!」
 ユキはその声に振り返った。
「ライザ!」
 ライザは二人の元に駆け寄った。
 そこには、女性が横たわっていた。
「この人は……」
「……私のお母様よ。瓦礫の下敷きになったの。また大切な人を失ってしまった……私は、私はこれからどうしたらいいの……」
 ユキは涙を落とした。
 ライザは、慰めの言葉すら掛けてやれなかった。
 ただ、黙って見ていた。
「サムソン、ちょっと」
「黙れ!」
「なっ!」
 サムソンは、ライザを軽く吹き飛ばした。
「く……な、何を……?」
「今はお前に構っている場合ではない、大人しく傍観していろ!」
「…………」
 ライザは、黙るしかなかった。
 
 王座の前では、老人が慌てていた。
「今日が約束の日やな、じいさん」
「た、頼む、見逃してくれ……そこに儂の孫がおる。こいつを儂の代わりに……」
 どうやら、あの老人がガーザ大王のようだ。
「けっ、なんて奴や。あんたには人の心がないんか!」
 ボン!
「ギャッ!」
 ガーザ大王の右腕が吹き飛んだ。大王は痛みのあまり転げ回った。
「惨めな奴や……まだわからへんのか? あんたが抵抗すればするほど、ガーザは壊滅に追い込まれるだけなんやで!」
「そ、そんなの儂の知ったことか!」
 ボンッ!
「ウギャアアアア!」
 今度は左腕が吹き飛んだ。
「ほんま、あんたには失望させられたわ。さっさとスピリトを頂こうかと思うとったが、もう少しいたぶったるわ!」  
「スピリトを頂くだと!」
 突然、サムソンが大声をあげた。
「そうか、貴様らアナトリアの策略が読めたぞ!」
「えっ!」
 アナトリアだって!
 すると、男がサムソンを見た。
「なんやサムソン、今更気付いたって遅いわい!」
「クッ、それが狙いだったのか! させるか!」
 バッ!
 サムソンが男に飛び掛かった。
「久々にわいとやろうってか? いい根性しとるやないか!」
「黙れ! 『フリーズアロー』!」
「ふん!」
 ボウ!
 サムソンの幾矢にも渡るフリーズアローは一瞬でかき消された!
「ちいっ!」
「ほな、わいも反撃させて貰うで!」
 シュン!
「き、消えた!」
 男は瞬間移動をした。
 
「一体この男は何者なんだ!」
「ライザ、あなたの予想は正しかった……」
「えっ!」
 ライザはユキを見る。
「炎の魔人は、アナトリア七統領の一人炎魔将軍セラフィスだったのよ!」
「な……」
 ライザは驚きを隠せなかった。
 普通の人間にここまでの力があるというのか!
 たった一発でガーザを廃墟に変えてしまった。そして、下級魔族をいとも簡単に作り出していた。
 セラフィスはもはや人間の域を越えている。冗談ではなく、本当に魔人レベルではないか!
 こんな奴があと六人もいるというのか!
 ライザは恐怖に震えた。
 
「はああああ!」
 カキン!
 サムソンとセラフィスの剣が激しい音を上げる!
 サムソンの剣は、伝説の四魔剣と言われたうちの一つ氷魔竜王剣だった。
 セラフィスは魔力で、巨大なファイアーソードを作り出していた。
「サムソンがあの魔剣の一つを持っているなんて……彼は何者なんだ?」
 サムソンはあのセラフィスとほぼ互角に戦っていた。二人がぶつかり合う度に、激しい衝撃波がライザ達を襲う。
「ケ、ケタ違いのパワーだ!」
 ライザはショックだった。
 ファレスじいさんもそうだったが、自分よりもケタ違いに強い奴らがゴロゴロ出て来たのだ。
 五年前に、魔王を倒したとか言って伝説の勇者きどりをしていた自分が恥ずかしくなった。
 実際あの時だって……
 
「なかなかやるやんか」
「お前に引けを取るつもりはない!」
「くく……面白うなって来たわ!ずっとガーザの雑魚と戦ってばかりで、張り合いがなかったんや!」
「セラフィス! なぜアトラスはこんな突然に行動に出たんだ!」
「お前に教える筋合いなんかあらへん!」
「ならば、力ずくで訊くまでだ!! ふん!」
「返り討ちにしたる! 『炎魔分身』!」
 すると、セラフィスが十人に増えた。
 しかも、みな体を炎が覆っている。
「『フリーズデストロイア』!」
 ジュウ!
「なんだと!」
 十人のセラフィスは、涼しい顔をして立っていた。
「くく……そんなみみっちい氷ではわいの炎魔術は破れへんなあ。行くで!」
 五人のセラフィスが一斉に攻撃に入る!
「『氷魔竜王剣開眼』!」
 バシュシュシュシュシュ!
 突然、氷魔竜王剣の剣先が幾重にも分裂し、五人のセラフィスを滅多刺しにした。
「こっちや!」
「なっ!」
 そう思った途端、二人のセラフィスがサムソンの後方を取った。
「『炎魔斬雑断』!」
 ザン!
「ぐふっ!」
 サムソンは思いっきり胸を斬られてしまった。
 体勢を崩す。
「まだまだやで!はああああ!」
 残りの三人のセラフィスが炎系の魔法を放つ!
 ゴゥ!
 サムソンはその場に倒れ込んだ。
「サムソン!」
 セラフィスは、一人に戻ってサムソンの前に立った。
「サムソン、今回はわいの勝ちのようやな。そいじゃ、大王のスピリトを頂くで!」
「ひいいいいい!」
 死にかけの大王は後ずさりした。
 セラフィスは大王に近づく。
「ほな、さいなら」
 セラフィスは大王に魔力を注入した。
「うわああああああ!」
 大王はみるみるうちに、水晶球のようになってしまった。
「へへっ! ガーザ=スピリト頂きや!」
 セラフィスはそのガーザ=スピリトと呼ばれるものに手を伸ばした。
 ライザは、セラフィスの行動をポーっと眺めていたが、すぐにはっとした。
 あれは、アナトリアの野望に使われるはずだ!このまま奴に奪われてしまっていいのか?
 その時、サムソンの氷魔竜王剣が落ちていることに気付いた。
「させるか!」
 バッ!
 ライザは氷魔竜王剣を掴んで、セラフィスに飛び掛かった!
「なんや!」
 セラフィスは慌てて炎を炸裂させる。
 ライザは瞬時にかわしてセラフィスの懐に入った。
「氷魔竜王剣!」
 ザン!
「ぐっ!」
 刃がセラフィスの肩をかすめた。
 ライザはそのままガーザ=スピリトを掴もうとする。
「殺したる!」
「えっ!」
 バキイイ!
 ライザはセラフィスに殴り飛ばされた。
 ライザは壁にめり込む。
「う、うう……」
「不意打ちくらわすなんて、卑怯な奴や! せっかく生かして返したろと思うとったのになあ。死ね! 『炎魔斬雑断』!」
 やられる!
 ザン!
 
 しかし、ライザは斬られていなかった。
 ゆっくりと目を開ける。
 すると、何かがライザにもたれかかって来た。
「ユキ!」
 なんとそれは、ユキだった。
「あかん、お嬢ちゃんに当たってしもうた」
 ライザはユキをやさしく抱えてやった。
「どうしてこんな無茶なことを……」
 涙が止まらない。
「ごめん、ごめんね……」
 ユキはただ謝るばかりだった。
「お母様が、お母様が……私のただ一人の家族が死んじゃったの。だから……もう大切な人を失いたくなかっ……たの…………」
「ユキ……」
「ライザは……ライザは私の心の支えだった。マリンブルーでのあの夜、私は本当に死のうと思っていた。これ以上何の為に戦うんだろうって……魔人の為にみんなおかしくなっちゃって……もうイヤだった。すべてが」
「…………」
「そんな時、あなたがいてくれた。嬉しかった。その時、あなたは私の心の支えになったの」
 抱えるライザの手が真っ赤に染まっていた。
「ユキ、もうしゃべるな!」
 すると、ユキはやさしくキスをした。
「ライザ……好きだよ…………」
 ガクッ。
「ユキ、ユキっ! おい、嘘だろっ! ユキぃぃぃ!」
 
 ユキが目を開けることはなかった。
 
 
 
 セラフィスは、ガーザ=スピリトを回収して、ライザの前に立った。
 ライザはセラフィスを睨み付けた。
「よくも、よくもユキを〜〜!」 
「何言うとるんや。あんたがいらんことしたせいやろうが! わいはお嬢ちゃんに手を出す気なんか全然あらへんかった!」
「黙れ!」
 ライザはセラフィスに飛び掛かった!
「わかったよ。あんたもお嬢ちゃんの所に連れていってやる!」
 ゴウ!
 セラフィスは炎弾を炸裂させた。
「はあああああ!」
 ザザン!
 ライザは炎弾を斬り刻んだ!
「なんやと!?」
「ユキを、ユキを返せええええええええええ!」
 ズン!
「ぐはっ!」
 氷魔竜王剣がセラフィスの腹を貫いた。
 激しく血が飛び散る!!
「こ、このやろ……『炎龍召喚』!」
「なっ!」
 ライザは吹き飛んだ。
 それだけにとどまらず、ガーザ城は消し飛び、底が見えない程の大穴が出来てしまった。
 
 セラフィスは腹を押さえながら、ゆっくりと立ち上がった。
「サムソンの奴、とんだ伏兵を連れてきたもんや。まさかここまでやるとはな……あっ!」
 辺りを見回すと、サムソンが立ち上がろうとしていた。
「あかん、奴が目え覚ましよった。今のわいでは、負けるのがオチや……」
 サムソンはボロボロの体で立ち上がった。
「セラフィス……」
「悪いが今日の所は引かせてもらうで、サムソン」
「ま、待て!」
 シュン!
 セラフィスは瞬間移動で消えてしまった。
 サムソンは地団駄を踏んで悔しがった。
「あの野郎……なんてことしやがるんだ!」
 サムソンは息を引き取ったユキを見た。
「すまん、本当にすまん……君達の仇は絶対に討つ」
 シュン!
 そう言うと、サムソンも瞬間移動で消えてしまった。
 
 
 
 ガーザは壊滅した。


続く