第7話　　by もの熊

 

やっぱり掃除をする前の予想通りで、俺はため息混じりに庭を掃除していた｡

確かに、『大掃除の日』と空音さんがいったように、たまには家の掃除はされているが、しかしこれははっきり言って酷かった｡

一ヶ月ほど掃除をしていなかったのか草が方々に生えていた｡

雑草は引っこ抜き、花は残して、その雑草を集めてごみ袋に入れて…｡

延々と続けていた｡

「まじで死ぬ……」

引き受けたときはなんてことはない、ただの掃除だと高をくくっていた｡

しかしこの家が無駄に広いのと同様に、庭も普通の家より大きいと気づくのにさほど時間はかからなかった｡

ふぅっと息をつくと、俺はいったん休むことにした。

はっきり言って、腰が痛い｡

長い間かがんでいたからと言うのもあるが、この頃運動不足だったせいからか｡

「あ〜あ…」

そのまま寝転がる。もうすぐ夕方である｡

澄み切った青色の空がわずかに赤っぽくなっている｡

涼しげな風がわずかに吹いていた｡

少しは綺麗になった庭に、すみれがゆらゆらと揺れた｡

そのまま、瞳を閉じて、ゆっくりと…

「智弘さん」

「は、はいっ！」

俺はびっくりして、飛び起きた｡

慌てて、起きた俺の目の前には、空音さんがいた｡

私服の上にエプロンを着て。

エプロンのひらひらが風にあたって揺れていた｡

手にはジュースを入ったコップを載せたお盆を持っていた｡

「はい、どうぞ。お疲れ様です」

そういって、ニコニコと微笑みながら渡してくれた｡

「あ、ありがとうございます」

のどが渇いていた俺には最高だった｡

そのまま受け取って、一気に飲み干す｡

「はい、どうぞ」

そういって、お盆を差し出した。

「あ、すみません」

俺は飲み干したそのコップをお盆に載せた｡

………

「空音さん、なれていますね」

「え、そうですか？」

わずかに照れたような表情を見せて、微笑んだ｡

「なんとなく、自然だった｡さっきの」

「そうですか…」

「やっぱり料理とかがとくいとか」

「得意ってほどでもないのですが」

そうはいえども、その物腰から容易に推測できた｡

「でも、この家では私がいつも料理しています」

「ふーん…」

一応、俺だってできる｡

……味は関係ないものとして。

「ところで、あの、姉さんのことなんですけど…」

「あ、あれの事」

「元からお知り合いだったのですか？」

確かにあのやり取りを見ていると知り合いだったってことになるかも｡

「実を言うと―――」

ということで、俺は昨夜あった事を話した｡

「そうだったのですか…」

全部聞き終わってから、少し驚いたような表情で空音さんが言った｡

「いつもあんな感じなの？」

「いえ、たまに気が立っているときにあんな感じです｡でも、いつもはやさしいんですよ」

「やさしい…」

あいつが？

「はい。ええと、例えば…」

器用に正座しながら腕組みをした｡

「あ、私を守ってくれます」

「守る？」

「なんか、特に男の人から。『悪い虫がつく』とかで」

　確かに、空音さんにはつきかねない｡

　十分に可愛いで通じるほどの美しさだし｡正確は天衣無縫そのもの｡その上、優しくて面倒見がいいといったら、手を出さない方がおかしい｡

「まぁ…確かにね…」

そしたら、こんな人と同居（実際には居候っぽいのだが）できる俺は、昨夜色々あったものの幸せなのか｡

「？　なんの話ですか？」

空音さんが、小首をかしげた｡

　「いや、こっちの話」

そのとき、

「ただいまー」

と、景気のよい声がした｡

「あ、姉さんが帰ってきたみたいです」

「どこかに行っていたの？」

「はい、晩御飯の材料を」

「空音〜、どこ〜？」

「それでは、もう行きますね」

「あ、ああ。ありがとう」

「では」

そういって、立ち上がるとドアを開けて廊下へといった｡

ふと、時間が気になって腕時計を見る｡

気づけばもう5時だった｡

「うわ、間に合うか…」

俺はすっくと立ち上がると、すぐにまた掃除を始めた。

　（2001.7.12）

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