CLANNAD 『CLANNAD』 (2005.8.29)

<優等生と劣等生の恋> 坂上智代ルート

個人的に最初に気になったのは、坂上智代。
彼女は以前の学校では、喧嘩が強く、色々な連中を打ち負かしてきたほどの人間離れした女性です。
それでも、根は驚く位に純粋。成績は優秀、誠実で聡明。
弟のために、生徒会に入ろうと、必死になって頑張っている。
他人の為に、何の見返りもなく一生懸命になれる奴なのです。
そして誰よりも女性らしい。
今までのKEY作品とは違い、作られた萌えキャラクターが列席している訳ではないものの、その中で極めて普通に女性的。
過去の自分を恥じており、誰かに女性として見て貰いたがっていた。
私の中では、一番可愛い奴、というイメージがあります。

そんな彼女は、堕落した朋也と比べれば、まったく逆の位置に立っています。
互いにあまりに不釣合いな存在なのです。
それでも惹かれ合うのが人間というものなのでしょうか。
他人から見て全く接点がないように見える二人は、実は互いに自然と安らげる存在であり、どんどん惹かれていきます。
中盤の智代との恋人としての描写は、他の誰よりも恋人同士のそれで。
読んでいる私を恥ずかしくさせるほどで。
他の誰よりもお互いがお互いを求め合っているように感じました。
幻想的な萌えキャラクターとの恋人ごっこではなく、生の恋人同士の姿だったと思います。

それでも、生徒会長となり、認められ始めると、世間がふたりを引き離そうとします。
教師や生徒会の仲間達が「二人は釣り合わない。一緒にいることが、彼女の才能を限定させ、奪っていくことなる」と言います。
朋也自身もそのことはよく理解しており、悩んだ末に、智代と別れることを決意します。
正直、涙が出ました。
こんなに好き合っている二人がどうして離れ離れにならなくてはならないのでしょう。

別れることが朋也なりの、智代への愛情だったのだと思います。
好きだからこそ、好きな人には幸せになってほしい。
自分が相手の足枷になるのなら、離れてやることで、幸せを掴んで欲しい。

それでも、朋也は馬鹿です。
好きならば、どんな困難があったとしても、一緒にいたいと思えばいい。
たとえそれがどんなに周りから反対されようとも。
自分が他人からどう言われようと、彼女の傍にいたいって気持ちを優先させればよかった。
離れるということが、どれだけ彼女を傷つけることになるか考えてあげて欲しかった。
彼女は、自分が優等生だとか、朋也が劣等生だとか、そんなことを気にしたことはなかったのだから。

そして二人は別々の生活を歩み始めます。
時が過ぎて、朋也は大学受験にも失敗し、就職を探す道しかなくなってしまいます。
そんなどうしようもない彼の前に、智代が再び現れ、好きと伝えます。
朋也はそんな彼女に一緒にはいられないと言います。

【朋也】
「俺は、働き始める…
そうすれば、本当に、別々の道になる。
お前は進学する。この町を離れて…
そこでは、たくさんの新しい出会いが待っている…
どんどん、お前は変わっていく。
期待されて、それに応えて…
自分じゃ気づかないうちに、
とんでもなく遠い場所に辿りついているんだ…

俺はこの町の片隅で、
毎日油にまみれるような仕事で、
汗をかいて…
いつまでも、同じ場所にいる。
居続けるだろ…
……
そんな二人が…一緒に居られる筈はない」

【智代】
「なら、朋也…
私がおまえの居る場所までいく。
もう、何もいらない。
生徒会なんて立場もいらない。
いい成績も、いい内申もいらない。
頭のいい友達もいらない。
私はおまえと一緒の春がいい。
それだけでいい…」

彼女の言葉は本当にまっすぐ、私の心を射抜きました。
人生を左右するような本当に大切な時期なはずなのに。
何よりも勇気がいることのはずなのに。
智代は、自分のすべてを捨てて、ただ朋也を求める。
感動しました。
カッコ良すぎです。
こんなに純粋な想いを受けられる彼は幸せだと思います。
二人の先に待っているものは本当に大変なことばかりかもしれない。
それでも、絶対に智代のことを大切にしてあげて欲しいです。

今回、麻枝氏は「永遠」や「奇跡」「死」というものを用いずに、極めて純粋な女性の姿を描くことで、普通に感動を与えてくれました。
小道具なしでここまでやってくるとは、これはやられたなあ、という感じです。

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