CLANNAD
『CLANNAD』 (2005.8.29)
<恋愛だけではなく、家族愛を描いた名作>
前作「AIR」より4年の時を経て発売された「CLANNAD」。
それまで散々に言われていた18禁シーンの薄さに対して、最初から一般作品として発売した男らしい作品です。
発売から1年経った今年になってようやくプレイする環境が整ったので、プレイしてみました。
クリア後からだいぶ期間が開いてしまいましたが、久々のPCゲームレビューいきます。
あらすじは、簡単にまとめると次のような感じです。
スポーツ特待生として高校に入学した岡崎朋也は、怪我によってスポーツの道を断たれる。
無気力となった朋也は、出席日数も、成績もギリギリという所謂「不良」と呼ばれるものになっていく。
そんな中で同じくスポーツの道を断たれた金髪の不良、春原陽平と出会い、馬鹿か毎日を過ごしていた。
そんな高校3年生の春、朋也は、校門の前で立ち尽くしていた古河渚に出会うことで変わっていく。
今回のテーマは、家族愛。
異性を愛するということだけではなく、友達を愛する、親を愛する、子供を、そしてすべてを。
といった実にグローバルな愛を描いた作品です。
登場ヒロインは、メインの5人を含め、結構多めです。
エンディング数はバッドを除くと11。
女性だけではなく、春原等の男性エンドもあります。
そこからもわかるかと思いますが、女の子を「攻略」と言った言葉がこれほどにも似合わない作品はないと思います。
この作品のテーマはあくまでも「家族愛」であり「恋愛」ではないからです。
グローバルな愛の形をひとつを描くことで、ひとつのエンディングを迎えるのです。
攻略に関してはかなりむずかしめで、何回頑張ってみても、バッドエンド。
さすがに10回バッドだった時には諦めて攻略サイトを探しに行きました。
攻略を簡単に読んで、各キャラクター攻略に必要な根本的な要素が抜けていることに気付きました。
私の中でも「誰々を攻略」ということしか頭になかったからなのですが、普通にプレイしていたら、なかなかクリアできないのでは…。少し難しいです。
グラフィックに関しては、「AIR」のときもかなりのものでしたが、今回もまさに神の如き所業です。
キャラクター毎のイベントCGは少ないものの、シナリオや立ちCGがそれをしっかりと補完してくれている為、気になりません。
背景については、最近では「草薙」等の外注に出している作品が増えてきている中で、自前でここまでのクオリティで仕上げてくるのは在り得ないレベルです。
キャラクターも4年前とは違い、かなり良くなったと思います。
いたる氏の絵は特徴的で、「ONE」の時にはかなり叩かれていたものですが、もうそんな心配はないかと思います。
音楽に関しても文句のつけようがない部分です。
BGM系では「町、時の流れ、人」が断然、お気に入りです。
聞いているだけで感動が湧き上がってくるというか、なんというか。
他にも「渚」や「潮鳴りU」「存在-piano-」等、心に真っ直ぐに刺さってくる曲が多いです。
システム面でも、ある意味完成され、洗練された感があり、ゲームをするに当たって支障がある部分は全くありませんでした。
そうしたきちんとした土台の上で、強烈なくらい、人の心に訴えてくるシナリオを書いてくるのがKEYの凄い所。
この作品は「ONE」「Kanon」「AIR」と同じようなテーマで歩き続けてきた麻枝氏の集大成。そう呼んでも過言でないかと思います。
「ONE」と「YU-NO」と出会ってから9年近くが経ちましたが、あれ以来、これだけ感銘を受けた作品はありません。
5年前に「果てしなく青い空の下で…。」を大きく評価しましたが、あれは「YU-NO」と同じくトータル的なバランスの良さを評価したもので、物語自体を評価するのは「ONE」以来です。
<春原陽平の存在>
まず、この作品で特筆すべき点は親友の春原陽平の存在です。
最近の恋愛ゲームは主人公=プレイヤーという位置付けがだいぶ少なくなってきている分、物語を読むという感覚が強いと思います。
そのため適当に作られた脇役がいるだけで、興醒めしてしまいます。
一切に力を抜かず、脇役にまで力を入れてこそ、新の面白いゲームができると思うのです。
どの恋愛ゲームにも、必ずといっていいほど主人公の親友という位置づけの人間は登場しますが、日常シーンを描くための道具としてしか使われていないことが多いです。
だけど、その点においては、春原はまったく違います。
春原というキャラクターがいなければ、ここまで面白い日常シーンが描けなかっただろうし、作品に深みを持たせることは出来なかったと思います。
まずはギャグ。
「ONE」から「AIR」までの作品において、日常シーンにおけるギャグにもある意味ポイントがおかれていたのですが、今回は本当に洗練されていると感じました。
回りくどくも無理矢理でもなく、真っ直ぐに読み手に伝わってくるようなギャグシーンとなっています。
(「AIR」の日常シーンなどは本当につまらなかった)
その点では、今までのKEY作品の中では一番かと思います。
そして、要所要所では、朋也を助けてくれる、見返りを求めない真の「親友」として描かれています。
底無しの馬鹿だけれども、それでも本当にいい奴なのです。
それが伝わってくるのは、各所各所にもありますが、春原兄弟ルート。
普段とは違った、本当の春原が顔を覗かせます。
彼は馬鹿ばかりやっている自分自身を必ずしも良いとは思っている訳ではなく、妹の芽衣にだけはそんな姿を見せなくないと感じていた。
芽衣の前では、良いお兄ちゃんでありたかった。
そんな彼の本当の姿を見ることで、更に彼のキャラクターの深さを感じることができます。
彼は、このCLANNADというゲームの世界に確かに「生きている」、と素直に思えました。
春原は、物語のテーマのひとつである「友情」を描いていたのだと思います。
<朋也と直幸>
朋也も春原も、自分の目指していた道を断たれ、世の中に絶望した人間。
そんな中で、老教師の幸村は、彼ら二人を巡り合わせます。
幸村にとっては、定年前の最後の「手のかかる子供」。
同じ境遇同士の二人を出会わせることで、辛いのは自分は一人ではない、と教え、立ち直らせてあげたかったのです。
そして、幸村の願いは届き、ふたりは親友となります。
そのおかげでふたりとも自暴自棄にならずに済んだものの、馬鹿ばかりやって、日々の生活を過ごしながら、嫌な現実を忘れようとしている。そんな感じです。
そして、その原因を作ったのは、他でもない、彼の父親である直幸。
母親の死以後、壊れてしまった直幸は、現実世界から逃避し、息子である朋也からも逃避する。
朋也に怪我をさせ、スポーツの道を閉ざさせてしまう。
直幸にとって、朋也は息子ではなく、ただの同居人となっしまっている。
そんな直幸の姿勢が、朋也の心を深く傷つけ、家から彼の居場所を無くさせてしまう。
悲しい。ただ、ひたすらに悲しいです。
家こそが、自分の帰る場所であり、落ち着ける場所であっていいはずなのに、そんな当然のことが出来ない。
居場所を失った朋也はその不安を、春原との馬鹿騒ぎで忘れようとしています。
でも、忘れようとして忘れられるものではないのです。
朋也と直幸の確執は、物語のテーマのひとつであるである「家族愛」の一角として、終盤まで大きく尾を引いていきます。
以下のリンクはネタバレを含まないと描けない部分ですので、その辺を知りたくない方はクリア後にもう一度起こしください。
・優等生と劣等生の恋(坂上智代)
・藤林姉妹(準備中)
・伊吹風子(準備中)
・一ノ瀬ことみ(準備中)
・サブキャラクターたち(準備中)
・古河渚(準備中)
・AfterStory(準備中)
「恋愛」と「家族愛」は大きく違うと思います。
最近の「恋愛ゲーム」の主流とは萌えであり、楽しくもあり辛くもある「現実世界」からの逃避、癒しであるとも言えます。
「CLANNAD」とは「家族愛」であり、極めて現実的な世界を描いたもの。
そう考えると現在の業界の流れとは相反する存在なのではないかと思います。
それでも、私には、現実に向かい合って、もう一度頑張っていこうという力を確かに与えてくれました。
各キャラクターの詳細レビューでも述べていますが、すべてが完璧なシナリオだったとはとは言えません。
いえ、この世に完璧なシナリオなどないかもしれませんが…。
それでも、今回は文句なしの100点を出したいと思います。
他の作品とは明らかに目指している次元が違いすぎます。
KEYの作品は、昔から偏見を持たれがちですが、この作品は老若男女問わず、誰にでもプレイして欲しい作品です。
◇CLANNAD
作者:KEY
シナリオ:20
キャラ:20
CG:20
音楽:20
システム:20
総合点:100「S」
※各項目は、12点を標準として20点満点で採点しています。
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