『痕』おまけシナリオ盗作疑惑 『痕』おまけシナリオ盗作疑惑
(2001.3.4)

この疑惑の経緯は、Leafから1996年に発売された
『痕〜きずあと〜』(CD-ROM版、現在廃盤)をオールコンプリートした後に、
ゲーム中のある場所から入れるおまけシナリオのうちのひとつに、
極めて盗作に近い文章が発見されたことです。

『痕』の企画・脚本担当はご存知の通り高橋龍也さんですが、
EDテロップに掲載されているように、おまけシナリオに関しては、
当時まだ入社していなかった青紫さんが執筆していました。

以下に問題となったおまけシナリオとその原文を全文掲載しています。
パロディとパクリ(盗作)に関しては微妙で、難しい問題です。
それをどちらと取るかは、読者に委ねられると思われますので、
自分の目で判断することが一番だと思われます。

なお、勝手に掲載してしまったことに関しては著作権上の問題があるのでは
と言われる方もいるかもしれませんが、内容の趣旨からしてどうしても
外せない部分ですので、ご了承ください。何かありましたら、直ちに削除します。



「アウターストーリーin痕」 (『痕』おまけシナリオ)

「博士! 博士っ! どうなされました!?」
「え!?」
気がつくと、漢が俺の肩を揺すっていた。
「博士…大丈夫ですか?」
男は心配そうにそんなことを訊く。
それよりも、俺はこの男を知っている。
この男は確か…
「あんたは、刑事の柳川だ!」
俺は、男を指差しながら言った。
ついでに、さらに重要な事も思い出した。
「『鬼』の柳川だ! なぜ俺の部屋に居るんだ!?」
「博士、私は助手の柳川です。オニではありません。
このシナリオでは、大発明をなさった博士の助手ですよ」
「う〜む」
彼の説明台詞を聞いている内に、俺は段々記憶が鮮明になってきた。
そうだ…。
俺…いや、私は高名な科学者であった。
私は今、ある薬品の開発を行っていたのだ。
その薬は、『飲むとどんな物質も通り抜けられる』という画期的なものだ。
壁を通り抜けて隣室へ行くなど、簡単すぎてあくびの出る作業となる。
薬は既に完成し、現在は実用化に向けての派生的問題の解決に全力を上げている。
完成すれば、建物の外で暇を持て余す武装警官達もむくわれることだろう。
他国がこの発明を狙っているとの情報だが、あれだけの『暇人』に守られていれば安心だろう。
「博士、この薬はもはや完璧と言えるのではないでしょうか」
フラスコを片手に、助手が訊いた。
「そうだ、それを飲めば、たとえ鉄の壁であろうと通り抜けるのは簡単だ」
私は自信たっぷりに答えた。
助手は窓の外の警官隊に目をやり、
「例えば、これを飲めばピストルで撃たれても平気だということですね?」
「そのとおり。ピストルの弾は通り抜けてしまうからな」
確かにスーパーマンになることも可能だろう。
「それさえ確かめれば、お前に用はない」
「えっ!?」
「フッフッフッフ、…新薬の開発、ご苦労だったな。俺はリーフ国のスパイだ。新薬の合成法はすべて頭に納めさせてもらった」
私は驚いた。
優秀な助手の柳川が、リーフ国のスパイだなんて。
…それよりも、
「リーフ国なんて国は知らんぞ! どこの国だ?」
しばしの沈黙…。
「と、とにかく、これでお前の役目は終わりだ」
柳川はピストルを取り出した。
狙いは心臓だ。
「待ってくれ。私を殺したとして、 厳重な警戒網をどうやって突破するつもりだ?
逃げられはしないぞ」
彼は空いた手でフラスコの新薬を飲み干し、
「バカ言え! たった今、お前が説明しただろう。
俺にはピストルは通用しない。どんな方法でも、 捕まえることは不可能だ」
引き金に指が掛かった。 まずいぞ!
「ちょっと待ってくれ!」
私は時間稼ぎを試みた。
…生き延びるにはこれしかない。
「往生際が悪いぞ!」
「じ、実は、この薬には一つだけ欠点がある。実用化に向けて解決しなければならない問題がそれなんだ」
私も必死だった。
「今更なにを…。お前はさっき、薬は完璧だと言っただろう。完璧とは、完全無欠を言うんだぞ!」
「それなんだ! 薬の欠点は、完全無欠である点なんだ!」
「フン…、恐怖でおかしくなったか? 完璧なら問題はあるまい、死ね…」
引き金が動いた。
…もうダメだ。
刹那、柳川の手からピストルが床に滑り落ちた。フラスコも同じように床に音を立てる
…間に合った!
驚きの表情で私を見つめる柳川。
「うわっ!!」
次の瞬間、彼の姿は床に吸い込まれた。
私は、ほっとため息をついた。
「私たちは常に、引力に引かれることを忘れたか? 新薬の欠点は、『どんなものも通り抜ける』ことだった。鉄も…、床も…、地球も…、」
柳川の消えた床には、彼の身に着けていたものが、 すべて残されていた。
新薬完成までは、もうしばらくかかりそうだ…。


『できすぎ』 吉沢景介

講談社文庫 『ショートショートの広場(1)』 収録
星新一 編 全324ページ
発行年月日:1985年7月15日
ISBN 4-06-183555-6

アッシュ博士が新薬を発明した。その薬を飲むと、どんな物質の中も自由に通りぬけることができるというのである。
博士は自信満々で、新薬の効果を「抜群」だと語った。
あとは、実用化に向けて派生的な問題の解決が急がれるのみである。
当局は、早速、厳重な警備体制をしいて博士の研究室を封鎖した。
いうまでもなく、新薬が敵の手に落ちることを恐れたのである。

日増しに強化されていく警備陣を睨みながら、ある日、
一人の助手がアッシュ博士に問いただした。
「先生、この薬はもはや完璧といっても構わないのではないでしょうか」
「そう、君の言う通り、新薬は完璧だ。これを飲めば、たとえ鉄の壁の中でも自由に通りぬけることができる」
博士は、自信タップリに答えた。
「すると」助手は、建物を取り巻いている武装警官隊の方を見やりながら、「……これを飲んだ人間は、銃で撃たれたとしても死なないことになりますね」
「そうだよ。鉛の弾だって体を通過してしまうからな」
「それさえ確かめれば、お前に用はない」
博士はびっくりした。助手の態度が急に変わったのだ。
いつの間にやら、助手の手に拳銃が握られている。
「お前は……」
「フッフッフッフ……新薬の開発、御苦労だったな。……どうだ、驚いたか。何を隠そう、俺はカマネリア国のスパイだったのだ。新薬の製造法は、全て頭の中に収めさせて貰ったぜ。あとは祖国の優秀な科学者が全て処理してくれるだろう。これでお前の役目は終わりだ。覚悟しろ」
スパイは、博士の心臓に狙いを付けた。
「待て! 待ってくれ」博士は震えた声で叫んだ。
「この厳重な警戒網をどうやって脱け出すつもりだ。十メートルと逃げられやせんぞ」
「馬鹿言え! たった今、貴様が説明したじゃないか」
この時、スパイは、少しもためらわずに新薬を飲んだ。
「こいつが効果を出してくれば恐いもの無しさ。 俺の体はどんなものでも通りぬけてしまうんだ。いかに有能な警官だって、俺様に指一本触れるわけにいくまい。その指が俺様の体を通りぬけてしまうんだからな。どうだ、俺の頭の良さに恐れ入ったか。ハッハッハッハ」
スパイの右手の人差し指がピクッと動いた。
「ちょっと待ってくれ」
拝むような姿勢でアッシュ博士が言った。
「何んだ、往生際が悪いぞ。言いたい事があるなら、サッサと言ってみろ」
「実は、この薬には一つだけ欠点がある。実用化に向けて研究を急いでいるのは、そのためなのだ」
博士は勇気をふりしぼって腹の底から声を出した。
しかし、スパイは少しも動じなかった。
「生命が惜しいからって、デマカセ言うな。さっき、完璧だと言ったのは貴様だぞ。いいか、完璧ってのは全然欠点の無いことを言うんだ」
「そっ、それなんだ。新薬の欠点は完璧ということなんだ」
「ハッハッハッハ。寝言はそれで終わりか。大分苦しい弁解だったな。……成仏しろよ」
だが、引き金を引こうとした瞬間、スパイの手から拳銃がスリ脱け、音をたてて床に落ちた。ようやく薬が効いてきたか。
アッシュ博士は思わず安堵の溜息をついた。もう大丈夫だ。
と、見る間にスパイの体が床の中に吸い込まれていく。
「ギャー」スパイは、高層ビルの屋上から落下していく人のように
長く尾をひく悲鳴をあげた。

床の上には、スパイの身に着けていたものが、下着から靴まで、そっくり残された。
「馬鹿な奴め。私たちが常に重力に引っ張られていることを忘れていたのか」
アッシュ博士は新薬の入ったビンを摘んで言った。
「新薬の欠点は、これを飲むと、どんな物でも通りぬけてしまうことなんだ。靴の底も、床も、それから地球も……」

<以上、引用>

私が解釈した所では、これはちょっとパロディでは収まらないような
気がします。微妙と言えば微妙かもしれませんが、
私には原文の人物名を変えて、少し加筆しただけにしか見えません。

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