ふと眠っていたようだ。
 今日の夜は忙しくなりそうだった。だから、今のうちに寝貯めだ。
 と思っていたら、それなりに寝れた。
 そして、ふよんふよん。
 今日二度目のふよんふよん。
 ふう……。
 明らかに落ち着いていた。
 
 ズベシッ!
 
「美凪のふとももでくつろぐな! この変態ストーカー男!」
 そこにはちるちるみちるがいた。
 数日しか経っていないのに、本当に久しぶりに思える。
 でも、出てくる言葉はこれだった。
「ふん。美凪は自ら自分のふとももを差し出したのだ。うらやましいだろ」
「……ぽっ」
「にょわ。美凪、じぶんからひざまくらしていたの?」
「してあげましょうか?」
「うん」
 元気よく眠ろうとしていた。
 これからという時に、みちるは寝ようとした。
「そうはさせるか」
 勢いよく体を傾けていくみちるだったが、俺は座っているみなぎを微妙にずらすことで、ひざまくらをさせないようにしてみた。

 ごちん。

 鈍い音がする。
「にょわっち。 ???」
 一瞬何があったか、わからなかったようだ。しかし、すぐに気がついたようだ。
「国崎往人、なんでそんなことをするんだ!?」
「ふふふ」
 俺たちは、しばらくそうやって遊んでいた。
 一年前に還っていた。



「……おはようございます」
 美凪は、いつもどおりかのように挨拶する。
 あの後、結局二人で半分づつ美凪のふとももを使用することになった。
 そして、ついそのまま眠ってしまったようだ。
 夕焼けはまる朝焼けのように空を染めている。。
「とりあえず、今はもうこんばんわになってしまうかのような時なのではないか?」
 夏の夕方は結構遅い。
 多分、今は七時くらいだろう。だから、もうこんばんわだ。
「……芸能人の挨拶はいつでもおはよう」
「いつから、芸能人になったんだ?」
「……多分次の一瞬から」
「は?」
 そして、その素っ頓狂な声が聞こえた。

「往人くんが行きずりの女性と密会した上に、膝枕でもんもんとしているよ〜」

 佳乃だった。




 

A I R  A F T E R S T O R Y 

#05 憂凪

Presented by 藍隈堂





「そうかそうか。遠野さんとそこまでいっていたのか。おめでとう国崎くん」
「……ぽっ」
 多分、今の俺の顔は相当赤くなっているのだろう。
 聖は、口を少し上げて笑っていた。

「はじめまして……じゃないよね」
「……何度かお会いしたことがありました」
 美凪と佳乃は、自己紹介をしている。
「えっと、霧島佳乃です。よろしくだよ〜」
「……遠野美凪です。聖さんには、お母さんの件でお世話になっていました」
「あっ、それでなんだ。時々、見かけていたのは」
「……はい」
 そこで、佳乃は美凪の隣にいるちっちゃいのに気がついたようだ。
「ところで美凪ちゃん、その隣にいるのは、往人さんとの……?」
「そうかそうか、国崎くん。君もさりげなくやるものだな」
「どうやったら、こんなでかい子供が生まれるんだ。大体、こんながさつな娘いらん」
「がさつじゃない、国崎往人!」
 そのまま、パンチが繰り出されるがうまく避けた。
 それを見ていた美凪は――
「……みちる、聖さんや佳乃さんにご挨拶は?」
 そこで、みちるは思い出したように佳乃や聖に向かい合うと――
「みちるはね、みちるっていうの」
「よろしくね、みちるちゃん。私は、佳乃っていうんだよ〜」
「その姉の聖だ。よろしくな、みちるちゃん」
「んに〜」
 ちょっとだけ、照れていた。
「うし、自己紹介も済んだ所で、それじゃ始めるか」
「……れっつらぱ〜てぃないと」
「んに、何をするの?」
 美凪は、みちるの背に合わせて、体をかがめた。
「今日は、みんなで遊びましょう」
 優しい顔で、そう言った。 
 そして、みんなで遊びだした。
「ぴこ〜!!」
 と、何か足元で毛玉が噛み付いている。
「あっ、往人くんと行きずりの女性の関係を迫っているうちにすっかり存在を忘れていたよ」
「うに、わんこだ」
 アレを見て一瞬で犬であると認識したみちるに素直に感心した。
「ポテトって言うんだよ」
「……はじめましてでも、ありませんね」
「うに、はじめまして」
「ぴっこり」
 美凪は、正座して。
 みちるは、屈んで挨拶した。
 ポテトも微妙に前屈みになって挨拶している。芸達者。
 美凪は、病院で何度か会っているようだ。
「ところで毛玉。どうして、俺の足に噛み付いた?」
「ぴこ!?」
 殺気を感じて、こちらを振り向く。
「おまえのような、毛玉犬は空に飛びたて!」
 空に向けて一蹴。
 星が一つ増えた。
「こら! 国崎往人! ぽてとをいじめるな!!」
 そう言いながら、俺を殴る。
「……動物虐待?」
「いや、大丈夫だ――もう帰ってきている」
「ぴこ〜」
 さすがに空から帰ってくるのは、この毛玉犬でも大変のようだ。
 しかし、それ以上にみちるが驚いている。
「んに?」
「毛玉犬の習性だ」
「んに! すごい、ぽてと!」
「ぴっこり」
 胸を張るポテト。それに驚嘆するみちる。
 こうして、夜はふけていった。



 その後のことは、本当に面白かった。
 みんなで童心に返って、シャボン玉をあげた。やはり、みちるは今でもシャボン玉がうまくあげられないようだった。聖は、医者のおかげなのか、手先が器用で何度もシャボン玉を上げていた。佳乃は、みちると一緒にシャボン玉が上げられない組だった。ポテトは、シャボン玉を追いかけている。
 一・二時間くらい遊んだ所で、気になる所があって美凪にあることを尋ねた。
「美凪、そういえばみちるは親父さんの所に帰らなくていいのか?」
 自分の子を心配しない親はいない。きっと、親父さんはみちるがこの時間まで帰ってこないことを心配しているだろう。
「……大丈夫です。お父さんには、私から伝えておきました」
 そうか、俺の考えは杞憂だったようだ。
 美凪は、今は親父さんと仲良くやっていけているようだった。
 俺は、それを言った。
「……はい。お父さんには、もう別の女性がいるからお母さんとの再婚はありませんが、それでもお父さんがお父さんであることは変わりはありません。今ではもう仲良しです」
「そうか、それは良かった」
 俺は、少しだけ気になっていた。美凪は、それでも昔離婚した女性の娘だ。いくら気になっていたと言っても、いつ邪険の対象になるか、それが怖かった。
 しかし、それはどうやら杞憂だったのだ。美凪は親父さんとうまくやっていけているのだった。みちるは任すだけの信頼は得ているようだ。
 ただ、もう一つ気になっていたことがある。
 それは……

「美凪、みちるお腹すいた」
「……そう。それじゃ、お食事をしましょうか」
 佳乃と聖も遊んでいた手を休め、みんなでお食事タイムとなった。
 ………
 ……
 …
「いつのまに用意したんだ?」
「……私が膝枕する前にです」
 目の前には、バーベキューセットが置いてあった。
「火は?」
「……企業秘密です」
 すでに、炭に火が着火されていた。
「……ぱ〜てぃないとということで、色々と用意ししてみたんです」
「国崎くん、聞いていなかったのか? 私たちは、こういうものを用意しているぞ」
 目の前には、肉やら野菜やらが、置かれている。
 聖たちが、用意したようだ。
「ついでだ」
 ご丁寧にタレやら皿やら、ついでに飲み物まで用意されている。
 と、飲み物の中に不信なもの発見。
「とりあえず、この場にこれは不必要だと思うぞ」
「国崎くん、君は飲むのだろう?」
「いや、飲めなくはないが」
「なら、これは国崎君用だ」
 と言って置かれたのは、ビールやらお酒の類だ。
 一人では飲めない量である。
 ……あとで、晴子に飲ませよう。
 
 そんなこんなで始まったお食事タイムは始まった。
 そして、しばらくが経った。
 まだ、観鈴は来ていない。
 晴子と共に来ると思っていたのだけど、やはり来ないのか?
「どうした? 酒が入っていないのか? それなら飲め」
 そういいながら、勝手に俺のコップの中に入っていたソフトドリンクを飲み干し、ビールを入れる聖。顔が真っ赤だよ、この人。
 ……いつの間にか美凪や佳乃は、みちると遊んでおり、微妙に俺と聖から離れている。
 相手をしろということなのか、おい。
「お姉ちゃん、久しぶりに飲んでいているみたい」
「……往人さんに相手してもらいましょう」
「あとは任したぞ、国崎往人」
 なんか、無責任な発言をしている。っていうか、俺にこれ(酔っ払い)をどうしろというのだ。
「まあ、飲みたまえ」
「ああ」
 とりあえず、場を合わせるか。
 そして、そのまま、くい〜っと、聖は飲んでいた。
 聖のコップは、すでに空になっている。
 「イッキ」しているよ……。しかも、誰かに言われたというわけでもないのに。
 そして、自分のコップにビールをなみなみを注ぐと、こちらに向けて――
「まあ、飲みたまえ」
「いや、まだ飲んでいる最中だ」
 晴子にタメを張るな、この酒量は。
 とか、そんなことを考えている時、ふと思った。
 そして、酒の場であることをいい事にそのまま口にする。
「どうしたんだ? 最近何かあったのか?」
 向こうで三人は、遊んでいる。こっちには、全く目を向けていない事を確認して言った。
「?」
 顔を赤らめている状態で、怪訝そうな顔をした。
「いや、今朝から気になっていてな」
「どういうことかね、国崎君」
「おまえらしからない行動が多くてな」
「ふむ……」
「そんなに酒を煽るのも見たことなかったしな」
 ………
 ……
 …
「ふぅ」
 しばらくの静寂。聖は、まるで何か意を決したかのように見えた。
「国崎君。君は、佳乃のことはどう思う?」
 聖は、向こうで遊んでいる佳乃を見ながら、そう呟いた。
「どういうことだ?」
 俺は、一度座りなした。
「好きか?」
 ブッ。
 あまりの直球に、口に入れたビールを吐き出す。しかし、聖は動じない。
 しかし、ここで答えないわけにもいかない。
「友達としては、好きだ」
 俺には、美凪がいる。
「そうか……」
 また、しばらくの静寂。今は下手なことはいえない。
「どうしたんだ? 本当に」
「私は、佳乃の姉だ。今は、母親代わりでもある。心配なんだよ」
 そうだった。聖と佳乃には、両親が居ない。
 聖は、佳乃にとって姉であり、同時に母でもあるのだ。
「佳乃は、君のことを――国崎君、君のことを良く思っている。できれば、佳乃の……と思っていたんだがね」
「……」
 そういうわけには、いかなかった。俺には、美凪がいる。
 もちろん、佳乃は友達だとは思っているが、それ以上の気はない。
「……まあ、今日のを見ていて、そんな気は起こさなくなったがね」
 少し苦笑いをしながら、そういった。そして――
「私は、佳乃が大人になるまで、面倒を見続ける気だ。しかし、今佳乃の心は……」
「どういうことだ?」
「……いや、なんでもない。国崎君、君は遠野さんのことをどう思っているのだね」
「好きだよ」
 最初、一年前のあの時点ではそんなことは思っていなかった。しかし、この一年、空にいる少女を探していて、同時に彼女の――美凪のことを考えていた。
 一年前の美凪とみちるの思い出を忘れられなかった。
 俺にとって、空にいる少女と同じ位に、いやもしかしたら、それ以上の存在になっていた。
 俺は、聖に正直にそのことを話した。
「そうか」
 二人ともビールを煽る。
「今後も――これからも佳乃と相手をしてやってくれ。せめて、こっちにいる間だけでも」
「それに関しては、今まで通りだ。佳乃は友達だからな」
 そう言って、少しだけ微笑んだ。
 俺は、美凪が好きだ。
 しかし、佳乃も好きだ。
 ただ、それが友達の好きかそれとも恋人としての好きかの違いだ。
 俺は、もう一杯ビールを煽り、空を見上げた。
 夜は、もうそこに来ている。
 聖は――
「少し酔い覚ましをしてくる。すまなかったな、国崎君。いきなりこんな話をしてしまって」
「構わないぞ、その代わり今度昼飯でも奢ってくれ」
「ふふふ、考えておこう」
 そう言いながら、聖は、佳乃に一言「散歩してくる」と言って、構内から、線路に降り立ち、そこを歩き出した。どこに隠れていたのかわからないが、ポテトは聖の後ろを歩き出す。
 まるで、聖を一人にすまいとするように。
 
 夜を迎えた。聖は――
 俺は、聖の後姿を見ながら、しばらく考えていた。
 その時だった。
 観鈴と晴子が来たのは。
 



<了>


初掲載:(01/8/30)

なんか、前回ペースアップするとか言っておきながら、結局ペースアップどころか掲載が遅くなってしまった藍隈堂です。
いや、この話はもうすでにできあがっていたのだけど、この#5〜#7までは、一つのターニングポイントになるので、下手な話にしたくなかったんですね。
だから、この後の#6もすでにある程度出来上がっているのですが、もう少し推考してから、掲載したいと思います。
そんなわけで、また一ヵ月後〜。(ヲ

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