永遠に続くであろう、ふよんふよんに俺は体を任していた。
 いつまで続くの?
 いつまでもさ。
 そう、一人ごちながら、ひと時の安らぎの中にいる。
 今の俺の世界は、ふよんふよんが全てだ。
 俺の世界=ふよんふよんの図が成り立つ。
 ふと、唇に感触。
 パッと、目を開ける。
 あの柔らかい感触は、きっとアレか?
 マウス トゥ マウス。
 もといチッス。……アホか、俺は。
 一秒で自らの思考に終止符を打つ。
 でも、今のは、どう考えてもキスだよな……。
「………ぽっ」
「美凪、自分からキスしてくるとは大胆になったな」
「大丈夫です。ナマコさんに代理を頼みましたから……」
 起き上がり、美凪の横を見るとそこには、もこもこナマコが、もこもこのぞのぞしている。
 ………
 ……
 …
「どういう意味だ?」
「冗談です」
 少し、怒気をはらませながら質問したが、一秒で返された。
「でも、これは本気です」
 そういって、隣にいる俺に短いキスをした。
 反則だと思った。




 

A I R  A F T E R S T O R Y 

#04 優凪

Presented by 藍隈堂





「くそう……」
 朝っぱらから、ラブコメをしてしまった。
 明らかに顔を赤らめている自分に余計に恥ずかしくなる。
「まだまだ甘いです」
 少しだけ、微笑みながらそう言った。
 ……?
「なあ、今日は朝からハキハキしているな」
「はい。今日から夏休みですから」
「そうか」
「それじゃあ、今日はみちるも来れるのか?」
「お昼以降に来るそうです」
 美凪は、またこれからくるであろう長い長い夏休みに期待をしているのだろう。
 美凪とみちると俺。
 また、永遠に続くとも思える夏休みが始まる。
 美凪は、また去年のように三人で遊べる事に期待をしていた。
「それじゃあ、それまでに出稼ぎをしておくか」
 えいしょ、という掛け声と共に立ち上がると、俺は鞄を持って立ち上がった。
「美凪も来るだろ?」
「ええ」
 美凪も立ち上がり、一緒に街に向かった。



 十数分後。
 俺たちは、あの恐ろしい医者のいる病院の隣にいた。
「誰が恐ろしいって?」
 背後には、すでに彼女が立っていた。聖だ。
「いや、なんでもないぞ。なんていうか、ここの病院には恐ろしい医者が一人いたような気がしないでもないような気がしただけだ」
 率直に言ってみる。
 メスが握られているので、これ以上言うのは止めておくことにした。
「ほう、今日は遠野さんと一緒か」
「おう、ラブラブファイヤーだ」
「………ほう、そうかそれはうらやましいことだな」
「………ぽっ」
「極悪医師もたまには恋愛をしろ、いいもんだ」
 たまには、臆面もなく言ってみるのも気持ちがいいものだ。
 いや、ちょっぴり恥ずかしかったが。
「ふふふ、もうしばらくは無理だろうな」
 いつもの聖とは思えないような反応が返ってきた。
「何かあったのか」
「君に心配されるほどでもないよ」
「ということはあるのか?」
「うむ、最近患者が全く来なくてな。健康なのはいいことだが、全く来ないとさすがに暇でな」
「それは、聖のいつもの行いが悪いせいで人が寄り付かなくなったんだろ」
 違った意味で捉えてみる。
「そうかそうか、国崎君は自らの身体を差し出して、私の暇を癒してくれるのだな」
 そう言いながら、メスを取り出す。
「嘘です。冗談です。きっと、聖さんの毎日の診療のおかげでたまたま今は暇になったんでしょう。毎日の診察お疲れ様です」
「わかればよろしい」
 ――続けて聖は
「……まあ、なんだ。そんなわけで暇をしているから、茶でも飲んでいけ」
「まあ、昼間までは俺たちも暇しているし、まあ茶でも飲んでやろう」
 そんな会話をしながら、大道芸を中止して、見慣れた病院の中に入っていった。



「遠野さん、あれから母上は……」
「……あれからは元気です。霧島先生、その節は本当にありがとうございました」
「毎度のことだが、先生はよしてくれないか。特に遠野さんの母上のことに関しては医師として本当に最高のことができたかどうかわからないし」
 少し困った顔をしながら、聖はそう言った。
「……わかりました。それでは聖さんと呼ばしてもらいますね」
「ああ、そうしてくれ」
 ふと、まともな医師としての聖を見たような気がして、少し驚いた。
「確かに国崎君の前では、あまり医師としての私は見ていないだろうな」
「って聖、どうして聞こえたんだ」
「喋っていたぞ」
「……まともな〜辺りから」
「まあ、確かに私は医者である以上に佳乃の姉だからな。特に国崎君にはそっち側の聖しか見ていないだろう」
「っていうか、まともに丁寧な言葉を使っているのを見たのが初めてだ」
「国崎君に丁寧な言葉なぞもったいないからな」
「おのれ、極悪医者め」
「……まあまあ」
 俺たちの間を割って、美凪が仲裁する。
「……そういえば、聖さんの妹さんは?」
「今は、部活動らしい。もう昼過ぎには帰ってくるだろう」
「……そうなんですか」
「美凪、佳乃には会ったことないのか?」
「……何度か、お会いしたことはあるのですが、話したことはほとんど……」
 ふと、思いついたことがあった。
「よし、今夜は宴会だ」
 二人とも一瞬きょとんとした。
「……どういうことでしょう?」
「今日は、みちるも来る事だし、聖や佳乃、観鈴も呼んで、みんなで遊ぼうということだ」
「……ぱ〜てぃないと?」
「まあ、そういうことだ」
「……ふむ、たまにはそういうのもいいな」
「昼間からするのもいいが、まだ色々とあるだろうし、夕方くらいからな」
 先ほどの聖の顔も気になったし、みちるもこっちで俺や美凪以外に友達を作るのもいいだろう。観鈴のこともあるしな。

 そうなると、すぐに行動を開始した。
 神尾家に行くと、案の上観鈴は一人で遊んでいた。
「今日の夕方暇か?」
「うん。暇だけど……?」
「よし、夕方に駅舎に来い」
「何をするの?」
「遠野さんちの美凪ちん風に言うのなら『ぱ〜てぃないと』だ」
 言って、観鈴をピンときたらしい。
「……でも、わたしなんかが行ったら――」
「――うむ。来いよ。っていうか、来いよ」
 少し脅迫的に言う。
「が、がお」
 とりあえず、一発叩いておく。
「今でも、覚えているぞ。おまえががおって言ったら、叩く事」
「そんなこと覚えなくてもいいよ〜」
「うるさい。美凪もおまえのことを待っているぞ。もしも、本当に怖いなら、晴子と一緒に来い」
「でも、お母さんが帰ってくるのは、夜になるけど……」
「それじゃ、その時でもいい。来い」
「う……うん。行くよ」
 とりあえず、来ることだけ確認すると、俺は神尾家を出た。
 
 美凪は、自分の母さんを誘いに行った。
 聖も、佳乃を連れて、夕方からくるだろう。



 宴会をしようと言った時、なんだろう、色々な人の顔が見えた。
 聖の今朝見た悲しそうな、寂しそうな顔を思い出した。
 観鈴が泣いている顔を見えた。
 みちるが空にいるあいつに会いに行く時を思い出した。
 だからだった。
 みんなで遊べばいいんじゃないかと。
 三人で遊ぶのもいい。
 でも、もっともっとたくさんだったら……
 空にいるみちるもあいつも喜んでくれるような気がしたのだ。
 こっちにいるみちるもきっと喜んでくれるだろう。
 そんな気がした。
 ……ただ、なぜか空にいるあいつと観鈴が妙にかぶって見えたのが、少しおかしかったが。
 そして、少しだけ笑った。

 パーティーを始めよう。
 ほんの少しだけ、だけど。
 でも、永遠に続くパーティーを始めよう。
 みんなで遊ぼう。
 シャボン玉でもいい。
 トランプでも占いでも。
 川まで行ったっていい。
 みんなが喜ぶように。
 みんなが笑えるように。
 遊ぼう。

 一陣の優しい風が、往人の前を通った。
 気持ちよかった。
 少しだけ、その風に浸った。




<了>


初掲載:(01/6/8)

ようやく、この小説も全体の構造っていうか、ある程度までの
筋が仕上がったので、これからは、もうほんのちょっとだけ
ペースが早くなるやもしれません。(ある意味快挙(^^;)
そして、今までは、一章につき、一日だった行動が今回は、3章分けに
なりそうでありんす。
まあ、暇を見つけてはちょろちょろ書いていくので、もしもよろしければ、
続けてよんでやってくださいな。(^^

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