太陽がまぶしい。
 今が何時かはわからない。
 それでも、太陽があがっている。
 もう朝だ。
 しかし、まだ眠い。
 このふよんふよんする枕の上で、あと一時間は寝ていたい。
 ふよんふよん?
 っていうか、気持ちいい。
 もう一度、寝よう……。
「おやすみなさい」
「……ダメですよ。往人ちゃん起きなきゃメ♪」
 …
 ……
 ………
「美凪。今のはなんだ?」
「……新婚さんいらっしゃい、新妻バージョンです」
「……」
「……すごい?」
「……どのあたりが?」
「……往人さんを、膝枕していた辺りが」
 俺は、ついついうつ伏せに寝ようとする。
 おや?
 ……
 どうやら、ふよんふよんの正体は、美凪の膝枕であったことが発覚。
 どうりで気持ち良いわけだ。
 …
 ……
 ………
「って、俺はいつまでコレをやっているんだぁ!」
「…………………………………ポッ」
「お願いだから、顔を赤らめるな」
「…………………………………往人くんのえっち〜」
「ぼそっ、変な事言うな!」
 そして、俺は今気がついた。
 俺と美凪、ふたりでボケていると、ツッコミ役がいないということを!




A I R  A F T E R S T O R Y 

#02 遊凪

Presented by 藍隈堂





「というわけで、以後二人でいる時は、ツッコミ役に徹しよう……」
「……特攻(ぶっこみ♪)役?」
「つっこみだ」
 俺は、昨日の約束だった美凪のお袋さん特製ハンバーグを突きながら、そうツッコミを入れた。とりあえず、頭にチョップしておく。
 
 ポカッ

「が、がお……」

 ポカッ

 とりあえず、もう一度、ツッコんでおく。
 観鈴にもやっていたしな。
「……何度も叩いたら、バカになるです」
「もう大分、オバカ属性だ。今のおまえは」
 俺は、美凪にそう言った。
「…………………………くすん」
 泣きそうになる。
「ああっ、悪かった、悪かったよ」
「……誠意がこもってません」
「ああ〜、悪かったよ」
「往人さん、冷たい」
 そう言いながら、美凪はこちらを少し泣きそうな目で見た。
 ううっ、この目には弱い。
「……悪かった」
 と、そういった瞬間、
「きちんとあやまったで賞」
 とりあえず、素直に「ありがとう」と言って、受け取った。
 そうしないと、いつまで経っても、終わらないような気がしたからだ。
 


「今日は、どうされるのですか?」
「とりあえず、今日・明日を使って、ここでお世話になった奴に会おうと思う」
「そうですか」
「美凪は、どうするんだ?」
「学校に行ってきます」
「そうか」
「はい」
 俺と美凪は、そう言うと、駅舎で別れた。
 俺は、商店街に向かう道へ。
 美凪は、学校に向かう道へ。
 二人は、歩き出していた。
 


 商店街に出た俺は、あることに気がついた。
「……そういえば、観鈴も佳乃も今日は学校があるんじゃ?」
 そう考えると、ちょっとここに来た意味が無くなった。
 しかし、まあ、聖の一人や二人はいるだろう。
「私は、分身しないぞ」
「ぶっ!!」
 そこには、見慣れた「通天閣」。
 そう霧島 聖がいた。
「久しぶりだな、国崎君」
「いつの間にいたんだ?」
「いや、外に出たら、ちょうど目の前にいたものでな」
「そうか、久しぶりだな、極悪医師」
「ふふふ、久しぶりに会っても、すぐに消えてしまうのだな」
 そう言って、聖は懐からメスを取り出した。
 なんていうか、変わっていなかった。
 しかし、すぐさま懐にしまう。
「まあ、今回は許してやろう。久しぶりに会ったのだからな。来たまえ。茶くらいだしてやろう」
 俺は、聖と共に病院の中に入っていった。
 中は、なんとも懐かしい匂いがあった。
「今日は、どうしたんだ?」
「ああ、久しぶりにみんなに会いに来たんだ」
 小さな嘘をついた。
「それなら、しばらくはいるのか?」
「そうだな。多分しばらくはここにいると思う」
「ふむ……。泊まる所とかは大丈夫なのか? 食事も大丈夫なのか?」
「泊まる所は前と同じで駅舎の中だ。食事に関しては……コレを見ろ」
 そう言って、俺は財布を取り出した。
 中身も見せる。そこには、一万円札は、数枚入っている。
「……ついにおまえも強盗をやったのか……」
 そういって、深刻な顔をする。
 ……俺がそんなに金を持っているのは、不思議か。
「言っておくが、これは俺が大道芸で稼いだ金だ。強盗なんてしていないぞ」
 それを聞くと余計に深刻な顔をする。
「おまえ、なぜに国崎往人のマネをする。この偽者め」
 ……どういう意味だ、それは。
「俺が、金を持っているのは、そんなに不思議か?」
「うむ。ここにいるのが、実は国崎往人ではなく、その双子の弟とか、そっくりさんではないのかと、思うほどだ」
 聖はあっさり肯定した。くそぅ。
「何にせよ、君は大丈夫なわけか」
 そう言っていたが、顔は少し淋しそうだった。
「そういえば、佳乃は学校か?」
「今日は半日らしいがな」
「そうか……」
 俺が考えていると、後ろから「ぴこ」という音が聞こえた。
「ぴこぴこ〜」
「おう、ポテトか」
 こいつも相変わらずのようだった。
「元気だったか?」
「ぴこ!」
 ちょっと元気に叫んだ。元気である、と言いたいらしい。
「そうか、そうか、元気か。おまえも相変わらずだな」
「ぴっこり」
 ふと、ポテトの足元を見る。
 なんだか、汚かった。
 ポテトの足が、泥か何かで汚いのだ。
 聖もそれに気づいたようだ
「ポテト。ここがどんな場所かは、知っているな」
「ぴこ〜」
「ふむ。知っているようだな。それでは、ここが清潔第一なのも知っているな」
 そう言うと同時にぽてとを掴み、外へ放り出した。(蹴って)
「足を洗って、出直して来たまえ」
「ぴこ〜」
 星になった。
「そして、国崎君。飼い主である君にも責任はある。掃除して行きたまえ」
「いつの間に俺は飼い主になった!?」
 あんなナマモノの飼い主になった覚えは無い。
「今だ。私は飼い主になった覚えはないから、きっと君だ」
「なんでやねん」
 関西弁で歯向かってみた。聖の手元には瞬間でメスが握られた。
「……はい、飼い主かはさておき、掃除させていただきます」
 俺は、せめて飼い主であることだけを否定すると、掃除を始めた。
「しょうがないから、私も少しだけ手伝ってあげよう」



 しばらくするとポテトも帰ってきた。
 今度は綺麗だ。きっとどこかで洗ってきたのだろう。
「ポテトも手伝うか?」
 俺は、とりあえず聞いてみた。
 ポテトは、フルフルと顔を横に振ると、ドアに向かった。
 彼女はいた。
 そして、第一声。
「帰ってきたと思ったら、いきなり都会のスィーパーさんになってきているよ」
 口を手で隠して、驚いていた。
 病院内のスィーパーになった覚えはあるが、都会のスィーパーになった覚えはない。
「もう少し、まともにお帰りなさい、とか言えないのか?」
「うん、そだね。お帰り! 往人くん」
 そう言うと、こっちに向かって、飛び込んできた。
 とりあえず、それを抱えた。
 咄嗟だったせいか、ずっこける。
「……いきなり、人の妹に手を出すとは、いい度胸だな。国崎君」
「今のを見ていただろう」
「ははは……」
 佳乃は、少し苦笑いした。
「さてと……」
 俺は、モップを立て掛けると、少しだけ腰を伸ばし――
「それじゃあ、少しだけ散歩してくるか……」
「そうか、行ってきたまえ。許してつかわそう」
 簡単に聖の許可が出た。
「それじゃあ、お姉ちゃん。私も一緒に言ってくるね」
「夕方までには、帰ってくるんだぞ」
「ぴこ〜」
 ポテトも一緒に行こうとしたが、聖の手によって、阻止された。
「そうかそうか、ポテト、君は国崎君の代わりになってくれるか。では、掃除の続きをやってもらおう」
 そう言いながら、ポテトの首を思い切り掴むと連れて行った。

 久しぶりに佳乃と散歩をしていた。
 しかし、なんていうか、進歩がなかった。
「タンタンタンタン♪ 走るよ走る、僕らの船はぁ〜♪」
「佳乃、おまえ進歩無いな……」
「違うよ、往人君。わたしのの進化スピードは日進月歩でマッハ5だよ」
「いや、それはすでに人間の領域を越えているぞ」
「う〜ん、ついに神の領域かぁ」
 違う。
 川まで来た。足元を固定していないと、佳乃に落とされて……

 ザッバーン!!

 豪快な音が聞こえた。
 落ちたのは佳乃だった。
「涼しいか?」
「ふえーん、ひどいよ往人くん」
「しょうがないな」
 俺がそう言って、川岸に行こうとした刹那。
 ふと、足がもつれた。
 おや?

 ザッバーン。

 隣には、佳乃。そして、俺。
「往人くん大丈夫?」
「いや、多分ダメだろうな」
 俺は、ものの見事に佳乃の隣にいた。
 俺の方が、橋の真中にいたせいか、濡れた率も高かった。
 ふと、佳乃が笑い出した。
 俺もつられて笑い始めた。
 


 結局佳乃と夕方まで遊んでいた。
 商店街まで送ると、聖に一緒に夕食を食べるように誘われたが、遠慮することにした。
 駅舎にいる人のために。
 そして、今駅舎にいた。
 美凪には会えたが、みちる二号には会えなかった。
「……遅いです。往人さん」
「みちるは、もう帰ったのか?」
「……はい。ここからお父さんのところまで帰るのは、結構大変なんです」
「ああ、そうか」
「おまえはいいのか? 」
「……すいません」
「そうか、でもおまえもがんばっているんだな。安心したよ」
 彼女は微笑んだ。美凪が行く理由はわかっていた。
「……往人さんもがんばってくださいね」
「ああ」
 そして、俺は美凪にある疑問を聞いた。
「観鈴のことなんだが」
「……はい?」
「あいつ、おまえと遊んでいて泣かなかったか?」
 ふと、美凪が驚いた。やはり……
「……どうしてそれを?」
「前からそうだったんだ」
 一年前から知っていた。彼女には友達は出来ない。
 なぜだかは、知らないが。
「……あれはどうしてなんですか」
「わからない。ただ、彼女は、それでいつも一人なんだ」
「そうだったんですか」
「美凪、観鈴と遊んでいてどうだった?」
「……はい。一度前にありました。元からあまり遊んでいませんが、前にちょっとお話して遊んだんです。そしたら……」
「……そうか……」
 あれは何だったのだろう。
 それを考えた。
 でも何も浮かばなかった。
 こうして、二日目は過ぎ去っていった。

<了>


初掲載:(01/1/25)

なんとも一気に掲載が遅れてすみません。(^^;
でも、また書き始めたので、もしよろしければ見ていてやってくださいませ。

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