「…やはり…行ってしまうんですね」
「ああ。大切なことを伝えてやりたいひとがいるからな。それに、それがあいつとの約束だから」
「……そうですね…約束ですよね…」
彼女は少しだけ寂しそうな顔をする。しかし、そこに悲観はない。
「…国崎さん…」
「ん?」
「…帰ってきて…くれますか…?」
「約束を果たしたらな」
「必ず」
あの夏、俺たちは別れた。各々の道を歩くために。自分たちのために。そして、三人で交わした約束のために。でも、この別れは悲しくない。
寂しいけれど、悲しくはない。 俺たちは、もう知っているから。
たとえ、どんなに離れていようと、俺たちの間を隔てるものは、空気だけだということを。
そして、望みさえすれば、いつだって氷が溶けてゆくようにその距離を埋めていけるということを。
だから、俺は会いに行こう。
約束はまだ果たせていないけど。
久しぶりに彼女の顔を見に行こう。
A I R 〜A F T E R S T O R Y〜
P R O L O G E
Presented by 藍隈堂
古い春という季節が過ぎ去り、新しい夏がもうすぐそこまで迫っていた。
あれから一年。
あの町から離れて一年。
あいつらと約束してから一年。
俺はバスを降りると久しぶりの空気にすこし懐かしさが込み上げた。
ある日、夢の中。一年振りのバカ面を見た。
少しだけ涙した。
今でも彼女は、空で楽しい思い出を語りつづけているようだった。
ふと思った。
こいつだけに会っておきながら、あいつには全然会っていない。
それでは不公平だから。
久しぶりに会いに行くことが決まった。
「アチィ……」
まだ初夏と言ってもいいはずなのに、それは盛夏と言ってもおかしくはなかった。
でも、自然と懐かしさが込み上げた。
暑さは、この町が相変わらず、だとでも言いたいのかもしれない。
さあ、会いに行こう。
久しぶりに彼女に会いに。
美しかった彼女に。
自分を自分と言えなかった臆病な彼女に。
今は心に強さを秘めた彼女に。
そして俺は駅舎に向かう。
彼女――遠野 美凪に会いに。
<了>
ようやく「美凪のコーナー」にコンテンツを置くことが出来ました。(遅すぎ)
見てのとおり、美凪シナリオのアフターです。
「極私的解釈」を読んでもわかってもらえるとおり、俺はあまり彼女のエンディングに対して、心の底から「良かったね」とは言えません。だから、俺なりに一つの方向性として、これを書くことが決定しました。
とりあえず、今回はプロローグのみです。
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